この和解を、今度こそ、政府と沖縄県の対話による事態打開につなげねばならない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる訴訟で、政府と県の和解が成立した。

 これにより、政府は埋め立て工事を中止する。政府と県はすべての訴訟を取り下げ、円満解決に向けて協議を進めることでも合意した。

 貴重な大浦湾の自然環境が破壊される前に、工事が止まる意義は小さくない。

 ただ、対立がこれで解消したわけでもない。

 最大の問題は、安倍首相が「辺野古が唯一の選択肢」との姿勢を崩していないことだ。その前提にたつ限り、「辺野古移設NO」の民意に支えられた翁長県政との真の和解は成り立ちえない。

 和解条項には、改めて訴訟になった場合、双方が司法判断に従うことが盛り込まれた。

 そうなる前に妥協点を見いだせなければ、問題の先送りに終わりかねない。

 新たな訴訟が確定するまでには一定の時間がかかる。丁寧な議論を重ねる絶好の機会だ。

 一方で、政府の狙いは6月の沖縄県議選、夏の参院選に向けて、問題をいったん沈静化させることではないか、との懸念の声もある。

 思い出すのは、安保法制の国会審議がヤマ場を迎えた昨年夏にも、政府が工事を中断して県と1カ月間の集中協議期間を設けたことだ。この時は、県の主張を聞き置くばかりで実りある対話とは程遠かった。同じ轍(てつ)を踏んではならない。

 首相はきのう、普天間の危険性の除去と、県の基地負担の軽減が「国と県の共通の目標」だとも強調した。

 ならば、政府がいま、なすべきことははっきりしている。

 首相が県に約束した普天間の「5年以内の運用停止」の実現に全力を尽くすことである。

 福岡高裁那覇支部が示した和解勧告文には、こうある。

 「本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。そうなれば、米国としても、大幅な改革を含めて積極的に協力をしようという契機となりうる」

 そのために、普天間の機能の県外・国外への分散を進める。政府と県だけでなく、本土の自治体とも話し合い、米国との協議に臨むべきである。

 「辺野古が唯一の選択肢」という思考停止を脱し、県との真の和解をめざす。そのための一歩を踏み出すべきときだ。