九条の会が緊急アピール文 安倍首相の改憲発言に抗議
    
       朝日新聞 2016年2月8日 
 
 安倍晋三首相が9条を含む憲法の改正について積極的に発言していることに対し、護憲派の文化人らでつくる「九条の会」は8日、東京都内の参院議員会館で記者会見し、安倍首相の発言に抗議する緊急アピール文を発表した。

写真・図版写真は記者会見する小森陽一・東京大教授(左から2人目)や澤地久枝さん(同3人目)、渡辺治・一橋大名誉教授(左端)ら「九条の会」メンバー=参院議員会館、北野隆一撮影

 アピール文では、国会答弁で憲法9条改定に言及したことに、「9条の意義を正面から否定する考えの持ち主」と批判。昨年の安全保障関連法案の採決や憲法への「緊急事態条項」創設の主張については「解釈変更と法律制定による憲法破壊に加え、明文改憲の主張を公然とするに至った」と強調。「自らの憲法尊重擁護義務をわきまえない安倍首相の明文改憲発言に断固抗議します」と訴えた。

 呼びかけ人の作家、澤地久枝さん(85)は「安倍さんは憲法9条2項を変え、殺し、殺される交戦権を認めようとしている。戦死者を出さなかった歴史が終わり、『絶対にやらない』と70年余り前に誓った戦争がよみがえる。命がけで反対しなければ、日本は戦争をする国になる」と語気を強めた。憲法学者の渡辺治・一橋大名誉教授は「安倍首相は戦争法(安保関連法)を強行可決して自衛隊を出そうとしたが、戦争をする国になるために憲法全体が大きな障害物になっていることが確認されたため、この最後のとりでを壊そうとしている」と語った。(佐藤恵子、編集委員・北野隆一)


九条の会、安倍首相に抗議する緊急アピールの全文

 安倍晋三首相は、2月3日と4日と5日の連日、衆議院予算委員会の審議において、戦力の不保持を定めた憲法9条2項の改定に言及しました。その際に、「7割の憲法学者が自衛隊に憲法違反の疑いをもっている状況をなくすべきだ」という逆立ちした我田引水の理屈や、「占領時代につくられた憲法で、時代にそぐわない」という相も変わらぬ「押しつけ憲法」論などを理由に挙げました。これらは、同首相が、憲法9条の意義を正面から否定する考えの持ち主であることを公言するものに他なりません。

 昨年9月、政府・与党は、多くの国民の反対の声を押し切って、日本国憲法がよって立つ立憲主義をくつがえし、民主主義をかなぐり捨てて、9条の平和主義を破壊する戦争法(安保関連法)案の採決を強行しました。この時は、「集団的自衛権の限定行使は合憲」、「現行憲法の範囲内の法案」などと、従来の政府見解からも逸脱する答弁で逃げ回りました。ところが今度は、そうした解釈変更と法律制定による憲法破壊に加えて、明文改憲の主張を公然とするに至ったのです。それは、有事における首相の権限強化や国民の権利制限のための「緊急事態条項」創設の主張にも如実に現れています。

 私たち九条の会は、自らの憲法尊重擁護義務をまったくわきまえないこうした一連の安倍首相の明文改憲発言に断固抗議します。2007年、9条改憲を公言した第1次安倍政権を退陣に追い込んだ世論の高揚の再現をめざして、戦争法を廃止し、憲法9条を守りぬくこと、そのために、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます。

   2016年2月8日

        九条の会