社説:原発の免震棟 九電の姿勢は信義違反

          
   毎日新聞2016年2月5日

 九州電力は、原発の安全性確保に真剣に取り組もうとしているのだろうか。そんな疑念を抱かざるを得ない事態が起きている。

 九電は、再稼働した川内原発1、2号機(鹿児島県)で事故時の前線基地となる「緊急時対策所」について、安全審査の際に約束していた免震構造での新設計画を撤回した。既存の耐震施設などで対応することを決め、原子力規制委員会に昨年末、変更を申請した。

 九電は、免震構造の原子力施設を国の許認可を経て建設した経験がない。規制委には「実績が豊富な耐震構造の施設なら、早期の運用開始が可能で、安全性向上につながる」と説明している。しかし、いつ運用開始できるかなどは示していない。

 規制委は変更に不快感を示した上で、「主張は根拠に欠ける」として九電に申請の再提出を求めている。

 川内原発1号機は昨年8月、新規制基準に合格した原発として初めて再稼働した。2号機も同10月に再稼働している。九電は規制委の安全審査で、今年度中をめどに免震構造の免震重要棟を建て、その中に緊急時対策所(面積約620平方メートル)を設置すると約束した。完成までは耐震の代替対策所(同約170平方メートル)を暫定的に使うこととしていた。

 耐震は揺れに対する建物の強度を高めるが、免震は緩衝装置で揺れ自体を吸収する。建物内の設備も壊れにくく、余震が起きても作業員が行動しやすい利点があるとされる。免震棟は東京電力福島第1原発事故で現場の対策拠点となり、その重要性が広く認識された。