福井・高浜原発 1,2号機運転40年超、審査合格 
 老朽原発に不安 地元は「心配ない」
             毎日新聞2016年2月24日


 関西西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の安全対策が24日の原子力規制委員会で事実上の合格となり、運転開始から40年を超える原発で初めて、20年の運転延長が認められる可能性が高まった。地元では地域振興への期待が高まるが、高浜原発では再稼働を控えた4号機で放射性物質を含む冷却水漏れがあったばかり。老朽原発の再稼働手続きは最初のハードルを越えたが、より慎重な安全対策を求める声や反対論は収まっていない。(1面参照)

 「町は高浜原発が4基とも動いているのが当然の経済。若い人の雇用への影響も大きい」。高浜町観光協会の理事を務めた民宿・飲食店経営、高田一さん(66)は「古くても、原発が安全かどうか本当は分からなくても、関電を信頼している人が多い」と語る。

 高田さんの青年時代、中学卒業後は安い賃金でも県外へ働きに出る人が多かった。「原発ができて、関電の関係会社へ就職して町内で生活できるようになった」。全国的な原発反対の声は否定しないが「安全が確認されたのなら早く元に戻ってもらいたい」と願う。

 高浜原発の建設に関わった建設会社の男性社長(67)は「相当の余裕度のある構造物なので心配していないが、どんなプラントも停止期間が長いとトラブルがつきものになる」と指摘。さらに「廃炉までの時間が短い」として放射性廃棄物の処分場探しなどを急ぐよう求めた。

 高浜町防災安全課の担当者は「住民と周辺の安全確保のため安全対策と防災面での国の取り組みを一層強めてほしい」と要望する。福井県原子力安全対策課の担当者は「現段階で何かを言える状況にない」と話した。【高橋一隆、村山豪】

「納得難しい」 30キロ圏・舞鶴市長

 高浜原発から30キロ圏にかかる京都府と滋賀県は3、4号機の再稼働手続きでは地元同意の対象外だった。1、2号機は一層の安全対策が求められる老朽原発だけに、手続きへの関与を求める声が改めて高まりそうだ。

 重大事故に備えた避難計画の策定が求められる30キロ圏に約12万5000人が暮らす京都府。山田啓二知事は「安全の確立が第一なので耐用年数をしっかりと踏まえた上でやるべきだ。より慎重な対応を求めたい」と語った。3、4号機再稼働に向けた地元同意手続きは立地自治体の福井県と高浜町のみで進められ、山田知事は「遺憾だ」と表明していた。

 府北部の舞鶴市は市域の大半が30キロ圏で、一部は事故時に即時避難が必要な5キロ圏に入る。3、4号機の再稼働を容認した多々見良三市長は「原発の寿命は40年と言われていたのに、急に『実は60年もつ』と言われても納得するのは難しい。中立的な専門家による客観的な説明を求めたい」と語った。

 滋賀県原子力防災室の中嶋実室長は「使用済み核燃料の処理など、いわゆる『静脈』の問題が解決するまでは再稼働を容認できる環境にない」と従来の県の立場を強調。再稼働への同意権などを含む原子力安全協定の法制化を国に求め続ける考えを示した。【野口由紀、鈴木健太郎、衛藤達生】

「さらに設備劣化」 3、4号機運転差し止め申立人

 高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分を裁判所に申し立てている人たちは、再稼働に向けた手続きが進むことを批判した。

 福井地裁に申し立てた西村敦子さん(51)=京都市=は「高浜4号機では1次冷却水が漏れた。古い原発ならなおさら設備が劣化し、トラブルを起こす可能性は高い。信じがたい暴挙だ。老朽原発がなし崩しに再稼働へ向かうことを危惧する」と語気を強めた。

 大津地裁に申し立てている辻義則さん(68)=滋賀県長浜市=も「本来ならば廃炉すべき古い型の原発を『安全』と判断する姿勢にあきれる。経済面を優先して4基を同時に稼働させれば、事故のリスクが一層高まってしまう。福島第1原発事故の経験と反省が何も生かされていない」と話した。【岸川弘明、田中将隆】