毎日新聞社説:国連の軍縮協議「核なき世界」の推進を
    
              毎日新聞2016年12月27日

 核軍縮と核軍拡の大きな流れが衝突している。オバマ米大統領が唱えた「核なき世界」の理想が、同大統領の退任(来年1月)後も継承されるか楽観を許さない状況だ。

 前向きな動きは国連総会が23日、核兵器禁止条約の制定に向けて来年3月から具体的協議を行う決議を賛成多数で採択したことだ。

 1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)は米英仏中露の5カ国に核兵器保有を認めているが、これらの核兵器国は、条約が定める核削減には消極的だ。このため核兵器を非合法化して廃絶しようというのが禁止条約の考え方だ。

 核兵器を持たない国(非核兵器国)が主導した決議案には113カ国が賛成、反対は核兵器国の米英仏露を含む35カ国で、中国など13カ国が棄権した。注目されたのは唯一の被爆国・日本が反対に回ったことだ。

 一方、採択の前日(22日)、プーチン・ロシア大統領は、米国のミサイル防衛(MD)に対抗して核戦力を強化する方針を表明、トランプ米次期大統領も同日、「世界が核で思慮分別をわきまえるまで」米国は核能力を大幅に強化すると主張した。

 世界の核兵器の9割を持つ米露がともに核軍拡を表明し、国連決議に真っ向から挑戦したように見える。

 核兵器禁止条約は今月中旬、長崎市で開かれた国連軍縮会議でも討議された。国連と外務省が主催してほぼ毎年開かれる会議で、今年は米露を含む約20カ国の代表が参加した。

 同条約について米国務省の高官は、米国には「核の傘」によって同盟国や国際社会の安全保障を担う責任があると述べ、一方的な核兵器の非合法化に強い反対を表明した。

 日本もこれに同調し、外務省の高官は、核兵器を廃棄するにも核保有国の知見が必要であり、核兵器国が関与しない核軍縮の取り組みには賛成しかねると述べた。

 対してイランなどの代表は、核兵器国だけが世界の安全保障を主導するのは国連の精神に反するとして禁止条約を定める必要性を説いた。

 日本政府が米国の「核の傘」に配慮するのも分からないではない。だが、日本が核兵器国と非核兵器国の橋渡し役として力強く発言しないと、トランプ政権の発足後は核軍縮がさらに難しくなると覚悟すべきだ。

 トランプ氏は、核開発を進める北朝鮮などを米国の核戦力で圧倒することを考えているようだ。だが、冷戦中の米国とソ連の核軍拡競争は世界を安全にせず、むしろ核拡散が進んだことを思い出すべきだろう。

 「核なき世界」構想を継承し推進する以外に世界を核の脅威から救う方法はない。そのことをトランプ氏もプーチン氏も肝に銘じてほしい。