米軍普天間飛行場の移設が計画されている名護市辺野古周辺=本社機「希望」から2016年6月、竹内幹撮影
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画を巡り、最高裁は20日の判決で国と地方の関係や移設の是非には踏み込まず、沖縄県側の敗訴を確定させた。国と県が互いに相手を訴えてきた訴訟合戦に大きな区切りがついたが、翁長雄志(おながたけし)知事は今後も移設阻止を目指す方針だ。政府が埋め立て工事を年内にも再開することで、対立がさらに深まることも懸念される。
知事、権限使い抵抗
菅義偉官房長官は20日の記者会見で、「国の主張が全面的に受け入れられた」と最高裁判決を評価した。そのうえで「我が国は法治国家だ」と強調し、翁長氏に判決受け入れを迫った。政府は、翁長氏が埋め立て工事の承認権限以外の手段で抵抗を続ける事態も想定。県に対する損害賠償請求などで対抗する構えだ。
13日に普天間飛行場所属の米軍機オスプレイが不時着し、大破する事故が発生したが、政府は工事再開の方針を堅持した。20日の判決で県側の敗訴が想定されていたうえ、22日には米軍北部訓練場(沖縄県国頭村、東村)の約半分が返還される式典が予定されており、事故で県民の反発が一時的に高まっても、沖縄の基地負担軽減を実現する姿勢を示していくことで「世論は納得する」(政府高官)との計算があったためだ。
政府の強硬姿勢の背景には、日本の安全保障環境が厳しさを増すなか、米国で安保政策が明確ではないトランプ新政権が来月発足することがある。新政権と日米同盟を重視する方針を確認するうえで、日米の合意事項である普天間移設計画に関し、日本側に揺らぎがないことを示す必要があると考えているためだ。菅氏は「辺野古への移設は唯一の道」として合意を着実に履行する考えを強調した。
一方、翁長氏は判決を受け、厳しい表情で記者会見に臨んだ。「県民は日米両政府が辺野古新基地建設を断念するまで闘い抜くと信じている」と「民意の結集」を呼び掛け、移設阻止の決意を改めて示した。
政府が移設工事を再開すれば、翁長氏は来年3月末に期限が切れる岩礁破砕許可を更新しないことや、知事の承認が必要な埋め立て工事の設計変更を認めないことなどを検討している。しかし、新たな知事権限行使がどこまで効果を示すのかは不透明だ。県幹部は「これまでのように埋め立ての是非は争えず、厳しい状況は否定しない」と語る。
しかも、翁長氏を支えるために保守の一部と革新が協力してきた「オール沖縄」体制について、知事周辺は「ほころびが見え始めている」と認める。北部訓練場の返還条件であるヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)の移設工事への抗議が続くなか、翁長氏は年内返還の実現を目指す政府の方針を「歓迎する」と発言し、革新系県議らの反発を受けて3日後に事実上の発言撤回に追い込まれた。
ただ、オスプレイの事故を受け「オール沖縄」の結束は戻りつつある。飛行再開を容認した政府への反発は強く、そこに最高裁判決が加わった。翁長氏は20日の会見で、オスプレイ事故に抗議する22日の大規模集会への参加を明言した。
革新系県議の一人は「細かな違いには目をつむり、まとまって抵抗していかなければならない。政府の揺さぶりで分断されては相手の思うつぼだ」と述べ、2018年の名護市長選や知事選も見据え、翁長氏を支える考えを示した。【田中裕之、佐藤敬一】
国防・外交、言及なし
最高裁は国と地方の関係には踏み込まず、辺野古移設の是非も判断しないまま、必要最低限の法律判断を示すにとどめた。一方で、福岡高裁那覇支部判決が力点を置いた国防・外交政策への言及を避けることで、「辺野古以外にはない」とした高裁判決の修正を図った形だ。高裁、最高裁とも前知事の埋め立て承認が妥当かどうかを審査したが、表現は大きく異なった。
高裁は「国の判断が明らかに合理性を欠いていない限り、知事は尊重すべきだ」と述べ、国の優位を明確にした。そのうえで、国の主張に沿って「我が国で北朝鮮の弾道ミサイル『ノドン』の射程圏外となるのは沖縄などごく一部」「県外移転はできず普天間の危険除去には辺野古しかない」と指摘。唯一の選択肢である辺野古移転のために埋め立てを承認した前知事の判断に不合理はないとした。
これに対し最高裁は、承認対象となる埋め立てが「最も適正」なものであることまでは求められていないと指摘。▽普天間の危険性除去は喫緊の課題▽普天間に比べ新基地は面積が縮小される▽航空機が住宅地の上空を飛行することが回避される--などを総合考慮した前知事の判断に誤りはないとした。
1999年の地方自治法改正で国と地方の関係は対等となった。2012年には国の是正指示に地方が従わない場合、国が違法確認訴訟を起こせるようになった。今回は国が起こした初の違法確認訴訟だったが、最高裁は「国が是正指示を出せるようになったのは、適正な対応を確保するためだ」と指摘。是正指示を出せるのは、看過できない違法が明らかな場合に限られるとの県側主張を退けた。
あるベテラン裁判官は「行政処分に裁量を逸脱する違法があったかを審査しており、オーソドックスな判断だ」と評価した。これに対し、白藤博行専修大教授(地方自治法)は「地域の問題は自治体が一番よく分かっているという前提が地方自治にはある。最高裁は改正地方自治法の理念を理解していない」と批判した。【島田信幸、伊藤直孝】