特集ワイド
 特集松田和のずばり聞きます 連合・神津季里生会長
    
            毎日新聞2016年12月15日

松田特別顧問の質問を聞く連合の神津里季生会長=東京都千代田区で2016年12月12日、内藤絵美撮影

本当に近いのは民進、共産と共闘「愚の骨頂」

 「安倍1強」と言われる政治状況に野党はどう立ち向かうのか。次期衆院選をにらんだ野党共闘を巡り思惑が交錯する中、民進党の最大の支援組織、連合の立ち位置に注目が集まる。キーマンの神津里季生会長はどう臨むのか。松田喬和・毎日新聞特別顧問が聞いた。【構成・横田愛、写真・内藤絵美】 

野党体質脱し、政権奪還を/労働時間インターバル規制を

 −−国政選挙での民進党と共産党の連携のあり方が注目されています。

 神津氏 戦術と戦略がごっちゃになっているきらいがあります。戦術としては野党が候補者をたくさん出しても与党に漁夫の利を与えるだけなので、一本化することが望ましいに決まっている。ただ、戦略で言えばもう一度、国民に「民進党に政権を任せたい」と思ってもらわないといけない。それを考えると、共産党が野党各党に呼びかける「国民連合政府」に乗るのは愚の骨頂ですよ。共産党とは目指す国の姿が違うことがはっきりしているのに、政策も含めて一緒にやろうなんてことは絶対あってはならない。

 −−その点、民進党と連合に認識の違いがありませんか。

 神津氏 執行部の要たる蓮舫代表、野田佳彦幹事長の2人と話している限りは、認識にギャップはない。ただ、民進党内にはいろんな考え方があります。目の前の選挙が最大のテーマだという候補者からすれば、共産党が持つ目先の1万、2万の票が欲しいのは事実でしょう。

 しかし、2大政党制と言ってもあくまで資本主義社会の話です。選挙になって自公両党から「民共」とまとめて言われてしまうと、「資本主義の中で切磋琢磨(せっさたくま)する政党ではない」と有権者に思われてしまいます。55年体制における社会党(当時)のように見られたら、民進党は永遠に浮かび上がれません。

 −−民進党が「この指止まれ」と呼びかけ、共産党が寄ってくるなら候補者を一本化してもいいが、共産党の動きに民進党が乗るのは主と従が違うと?

 神津氏 その通りです。民進党と一緒にやりたいなら共産党が党名と綱領を変えたらどうですか、という話なんですよ。これは連合本部がどうこう言う以前の話。選挙応援で電話がけやポスター張りをする際、共産党とスクラムを組んで動くとなると、どうしても現場の組合員の心が離れてしまいますから。

 −−その民進党ですが、蓮舫代表の就任以降も政党支持率が1ケタ台と低迷しています。原因は何だと考えますか。

 神津氏 国民目線で「もう一度政権を預けよう」「預けるに足る政党だ」と、まだ見られていないということ。原因はいろいろあるでしょうが、「党が一つにまとまった」と見えないことがあると思います。

 自民党が下野した時は、反省すべきはしっかり反省し「もう一度政権奪還を」と、党内がまとまったのは間違いなかった。民進党(民主党)が下野して4年たちますが、支持率低迷には、そこに物足りなさがあるんだと思います。

 −−働き方改革について聞きます。与党が来年度税制改正大綱で、妻が専業主婦・パートの世帯を優遇する配偶者控除の存続・拡充を決めましたが、どう受け止めていますか。

 神津氏 あれだけ「見直す」と大見えを切ったにもかかわらず、夫が控除を受けられる妻の年収上限を150万円に引き上げてお茶を濁したのは「大山鳴動してネズミすら出て来ない」という結論ですよ。

 びほう策や部分的な手直しでなく、総合的に体系的にきちんとやらないと世の中の動きに対応できない。本質を置き去りにして、選挙が近くなると人気取りだけで制度を作ってしまう典型ではないかと思います。

 −−欧米で起きている格差を背景とした社会的な摩擦が、いずれ日本でも起こる可能性があると見ていますか。

 神津氏 格差社会で言えば、欧州に比べて日本のほうが相当進んでいます。安倍晋三首相が「賃上げ、賃上げ」と財界に要求したので2014〜15年と賃金は上がりましたが、賃上げできた大手企業と、そうでない中小企業では格差が開いた。欧州では、組合がないところの労働者も組合のあるところが決めた労働協約を適用する「労働協約の拡張適用」という仕組みがあります。日本のように格差が拡大することにはならないのです。

 −−電通の社員が過労自殺した問題を受けて、政府内でも労働時間の短縮が議論となっています。

 神津氏 痛恨の極みで、何とかならなかったのかと。政府の働き方改革実現会議でも労働時間の上限規制が議論となっていますが、もう一つ「インターバル規制」を俎上(そじょう)に載せるべきだと思います。欧州連合(EU)が各国に国内法整備を求める「指令」で、終業から始業まで11時間空けるよう求めており、日本でもKDDIなどが労使の話し合いで実現しています。

 −−ずばり聞きます。安倍政権が労働政策に積極的に手を突っ込んできている今、連合の存在感が問われていると思うのですが。

 神津氏 発信力という点では、政権にはもともとアドバンテージがあるし、この政権はこれまでの政権で一番上手じゃないかと思っています。僕らも素晴らしい政策を作り、分厚い政策集も持ってはいます。ただ、世の中の仕組み自体を大きく変えるポイントになる政策をガンッと打ち出せているかと言うと、地道なことはやってはいますが発信力は足りない。「せっかくいい政策案があっても、知ってもらわないと意味ないぜ」ということを組織の中で口酸っぱく言っているのですが。

 −−11月に5年ぶりに行われた連合と自民党の政策協議の後、同党の茂木敏充政調会長は「連合の政策に最も近いのは自民党だ」と秋波を送っていました。

 神津氏 そういうところがうまいんです、あの人たちは。私たちは共産党を除く他の政党には全て政策説明をしてきています。民主党政権の後に自民党との関係が疎遠になっていたので普通の状態に戻さないといけないと思って協議を持ちかけました。だからといって民進党との関係をなおざりにすることなんて全くない。

 2大政党という形でこの国の民主主義の姿を確立しないと、自分たちが政権選択するという意識が薄れ、投票率も低下する一方です。自民党が「働き方改革」と言いだしたのも最近で、むしろ向こうからこっちに近づいて来たのです。私たちと本当に近いのは民進党ですよ。


 ■人物略歴

こうづ・りきお

 1956年東京都生まれ。79年新日本製鉄(現新日鉄住金)入社。新日鉄労組で会長を務めた後、基幹労連の中央執行委員長、連合事務局長を経て2015年10月から現職。