駆け付け警護可能に 治安悪化、陸自任務に影 南スーダン、首都外で内戦深刻
    
           毎日新聞2016年12月13日

 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊部隊は12日、安全保障関連法に基づき新任務の「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」が実施可能となった。政府と反政府勢力による事実上の内戦が続いてきた南スーダンでは、首都ジュバは比較的落ち着いているものの、各地で暴力が激化。国連や他国軍と陸自部隊の調整も「未知の領域」で、新たな国際貢献は不安含みのスタートと言えそうだ。

指揮転移式に臨む駆け付け警護などの新任務を付与された陸上自衛隊の派遣部隊=南スーダンのジュバで2016年12月11日、防衛省・自衛隊提供

 数百人が死亡した政府軍とマシャール前第1副大統領が率いる反政府勢力との7月の大規模戦闘以降、首都ジュバからマシャール派の部隊が撤退したことで「当面は首都で再び武力衝突が起きる可能性は下がった」(国連関係者)とされる。ただ、7月に再燃した事実上の内戦は、首都の外では沈静化どころか悪化している。主に政府軍側が攻勢を各地で強めているためだが、これに伴い深刻な人道危機も進行している

 首都の南西約150キロのイエイ周辺では政府軍による反政府勢力の掃討作戦が継続中。現地からの情報によると、軍兵士による暴力は「反政府勢力シンパ」と疑われた住民にも向けられ、拘束や住居破壊、性的暴行が相次いでいる模様だ。米国は、政府軍の主体を担う最大民族ディンカ人の民兵約4000人がイエイ周辺に送り込まれたと指摘。現地視察した国連人権理事会の専門家チームは、多くの子供が政府側と反政府側の双方に兵士として徴用されていると明言した。

 コンゴ民主共和国との国境に近いヤンビオでも住民が標的にされ、大学生ビディットさん(26)は「政府軍は住民に恐怖心を植え付けようとしている」と語った。コンゴ側に脱出する人が後を絶たないという。政府軍側が大量の武器を海外から持ち込み大規模戦闘の準備を進めているとの見方も広がっている。

 南スーダンは64の民族が暮らし、5年前に独立したばかりで「国より出身民族への帰属意識が強い」(安全保障研究所のガティム研究員)。ディンカ人主体のキール政権の武力による支配や腐敗に対する反発は、マシャール氏の出身民族ヌエル人だけでなく、他の民族にも広がっている。このため、各地で民族単位の自警団などがマシャール派と連携。報復攻撃が繰り返されて憎悪の連鎖が拡大している様相だ。

 複数の国連の専門家は「ジェノサイド(大虐殺)」という激しい表現で、急速に悪化する治安に懸念を示す。国連人権理事会の専門家ヤスミン・スーカ氏は「飢餓や集団レイプ、焼き打ちなどの手段を使った民族浄化が確実に進行している」と警告した。仮にジュバにまで民族間の衝突が飛び火した場合、陸自を含むPKO部隊が民族紛争に巻き込まれる危険性もある。【ジュバ小泉大士】

制約多く 国連どこまで理解

 「しっかり任務を遂行してもらえるものと確信している」。駆け付け警護などの新任務が実施可能になった12日、稲田朋美防衛相は記者団に強調してみせた。仮に駆け付け警護を実施した場合、「できるだけ情報は結果として報告するつもりだ」との考えも示した。

 陸自部隊の拠点があるジュバの宿営地では、歩兵部隊のルワンダとエチオピアのほか、バングラデシュ、カンボジアの各国軍も活動する。今後、他国軍と一緒に拠点を守る宿営地の共同防護に備えて、他国との連絡手段や役割分担などの確認を進める。状況に応じ、駆け付け警護の訓練も行うとみられる。

 PKOは多くの国の軍が活動する特性があり、大国や近隣国の利害も複雑に絡むため、自衛隊は外部からの視線に神経を使う。陸自部隊の迷彩服には昨春から、左腕に目立つように日の丸のワッペンを入れ始めた。他国や現地住民から、南スーダンで活動する中国の歩兵部隊などと誤解されるのを避けるためだ。

 自衛隊内の一抹の不安は、武器使用など他国軍と比べて多くの制約を受ける状況を国連側がどれだけ理解してくれるかという点にある。ある自衛官は「国連側は近年、『派遣国の制約を後出しで言われても困る』と言ってくるようになった」と明かす。例えば、全体で約350人の陸自部隊には他国の「歩兵」にあたる警備要員(普通科隊員)が50〜60人いて、二つの小隊を構成する。国連側が「他国軍と同じ歩兵部隊」とみなせば、率先して駆け付け警護に出動するよう求めてくる恐れがある。政府は国連代表部や南スーダン大使館などさまざまなレベルで「部隊はインフラ整備をする施設部隊」と説明し、表向き理解を得られたとする。駆け付け警護の実施は他国軍が間に合わないなど極めて限定的な場合という位置付けだが、その通りに運用されるかは不透明だ。

 新任務解禁に際し、政府は「PKO参加5原則」が崩れた場合だけでなく、「安全を確保しつつ有意義な活動の実施が困難な場合」もあえて撤収要件に加えた。だが、南スーダンPKOの重点はインフラ整備などの国づくりから文民保護に変容している。治安が悪化するほど新任務のニーズは高まるといえ、ある防衛省幹部は「撤収要件は追加されたが、逆に(新任務が可能になって)自衛隊はますます引けなくなった」と漏らす。【町田徳丈、村尾哲】