駆け付け警護、閣議決定 武器使用を拡大 安保法、
 新任務付与

    
            毎日新聞2016年11月15日

 政府は15日午前の閣議で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊に安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」任務を付与する実施計画案を決定した。稲田朋美防衛相が18日、交代する施設部隊に派遣命令を出す。3月に施行された関連法の新任務の付与は初めて。武器使用が拡大し、自衛隊の国際貢献が新たな段階に入る。

 駆け付け警護は国連職員らが暴徒などに襲われた際、要請に応じて自衛隊員が救援に赴く任務。政府は閣議に先立って国家安全保障会議(NSC)を開き、計画案を了承した。12月12日から現地で駆け付け警護を実施可能とする。

 交代部隊は陸自第9師団(青森市)を中心に編成し、20日から出発する。同時に他国軍との「宿営地の共同防護」も実施可能とする。稲田氏は記者会見で衛生体制の充実を理由に、派遣する医官を3人から4人に増やすと発表した。

 政府は15日、新任務に関する「基本的な考え方」とする文書を公表。駆け付け警護を「対応できる国連部隊が存在しないなど、限定的、応急的、一時的な措置として行う」と説明し、救援対象に「他国軍人は想定されない」とした。また駆け付け警護を「リスクを伴う任務」と認め、共同防護も「他国要員と自衛隊員が共同して対処したほうが安全を高めることができる」とした。

 南スーダンの首都ジュバでは今年7月、激しい武力衝突が発生したが、政府は現状を「比較的落ち着いている」と主張。実施計画に撤収に関する項目を新設し、「安全を確保しつつ有意義な活動を実施することが困難な場合」にNSCで審議し、撤収するとした。

 安倍晋三首相は15日の参院環太平洋パートナーシップ協定(TPP)特別委員会で「衝突事案後も治安を理由に撤退させた国はない。国連が増派を決めるなど、国際社会は取り組みを強化している」と意義を強調した。


 ■解説

未経験の領域に

 政府が「駆け付け警護」の実施を決めたことで、自衛隊の海外での活動を飛躍的に拡大する安全保障関連法の本格運用が始まる。政府は「限定的な運用」を強調して国民の理解を得る考えだが、武器使用が拡大するリスクを伴う任務であることは間違いない。

 政府は15日に公表した文書で、駆け付け警護に関して「施設部隊の能力の範囲内で行う。他国軍人を警護することは想定されない」とした。ただ、新任務による武器使用は、自身や自己の管理下にある者を守るための「自己保存型」から、任務を妨害する者を排除する「任務遂行型」へと拡大する。自衛隊員がこれまで経験していない領域に入るのは間違いない。

 南スーダンでは部族対立が激化し、政府軍人が非政府組織(NGO)を襲撃する事件も起きた。派遣部隊が政府軍と対峙(たいじ)する懸念もあり、そうなれば憲法問題に発展しかねない。政府は「ジュバは比較的落ち着いている」と繰り返すが、万一の事態に備えて「撤退する勇気」も必要だ。現地情勢を軽視した「派遣ありき」の判断ならば、自衛隊の活動に対する国民の信頼が揺らぎかねない。【村尾哲】