派遣法改正案:施行延期、来月30日軸に調整 成立遅れ
            毎日新聞 2015年08月01日 

政府・与党は、企業が同じ職場で派遣労働者を使える期間の制限(最長3年)を事実上撤廃する労働者派遣法改正案について、施行日を9月1日から先延ばしする方針を固めた。9月30日を軸に調整している。日本年金機構の情報流出問題などで審議が大幅に遅れており、成立後に必要な政省令の改正などの準備が間に合わないため。【阿部亮介】

 ◇政府、「10月前」に固執

 改正案は昨年の通常国会と臨時国会に提案されたものの、条文ミスなどでいずれも廃案になった。今国会では6月19日に衆院を通過したが、安全保障関連法案の審議の影響もあり、7月30日にようやく参院厚生労働委員会で実質審議入りした。政府・与党は当初8月初旬の成立を目指していたが、8月末から9月上旬にずれ込む見通しで、9月1日には間に合わないと判断した。

 ただ、政府は「10月1日前の施行」を譲らない構えだ。同日には企業に不利な「みなし雇用制度」が始まるため、改正法でその効果を打ち消したいからだ。同制度は民主党政権だった2012年の派遣法改正で盛り込まれた労働者保護策で、派遣期間が3年を超えるなど違法派遣があった場合、労働者が希望すれば派遣先の企業が直接雇用しなければならない。人を代えれば派遣期間に制限がなくなる今回の改正案の施行によって、派遣先企業は同制度の適用を免れることができる。

 施行日を修正した場合、衆院での再可決が必要になる。野党側は改正案に反対しており、衆院で改めて審議を求め、成立が大幅にずれ込む可能性もある。

 ◇短い周知、労組が批判

 今回の派遣法改正案は公布から施行まで1カ月程度しか見込めず、周知期間が極めて短くなる。当初は十分な期間を空ける考えだったが、2回廃案になった上、政府が「10月1日前」の施行にこだわっているため、異例の「スピード施行」となる。これに対し、労働問題に取り組む弁護士や労働組合から批判の声が上がっている。

 改正派遣法の公布から施行までの期間は、直近の2012年改正は5.9カ月と半年程度あった。最短でも4.8カ月(1999年)で、制定時(85年)は11.9カ月と1年近くあった。労働基準法や労働契約法改正でも半年ほどの期間を取るのが一般的だ。

 特に今回の派遣法改正案は、期間上限を撤廃することで企業側が同じ仕事に派遣を使い続けることが可能となり、派遣法の根幹にある「臨時的・一時的」との原則が変わる恐れがある大改正だ。派遣労働者のキャリアアップ措置なども盛り込まれ、派遣会社が施行に向け対応すべきことも多い。

 これについて記者会見で聞かれた塩崎恭久厚生労働相は「速やかな審議をお願いしたい」と述べるにとどめ、具体的な説明を避けた。佐々木亮弁護士は「抜本的といえる改正なのに、ほとんど周知期間がないなどあり得ない。労働者を置き去りにする政府の姿勢そのものだ」と批判する。【東海林智】