日本国憲法の施行から68年となった3日、各地で憲法を考える集会が開かれた。自民党は来年の参院選後をにらんで憲法改正を目指す意向で、「改憲」が現実の課題として浮上している。戦後70年。9条の解釈を安倍政権は変え、集団的自衛権の行使を認める安保法制の成立を今国会で目指す。憲法はもはや時代遅れなのか。いまも誇るべき理念なのか。護憲・改憲それぞれの立場から市民や政治家が訴えた。

 国会では、連休後に憲法審査会が再開し、憲法論議が本格化する。自民党は、災害対応を規定する「緊急事態条項」など与野党で合意しやすい項目で改正案をまとめ、来夏の参院選後にも国会で改正を発議し、早期の国民投票に持ち込みたい考えだ。安倍政権のもとで確実に改憲を果たし、9条改正は次の段階で行うことを視野に入れている。

 憲法改正に反対する市民や労働組合は、横浜市西区の臨港パークに集まった。主催者発表で約3万人がプラカードやのぼり旗で「9条を壊すな」などと訴えた。首都圏では昨年まで二つの大きな護憲派集会が開かれてきたが、改正論議が高まる今年は「憲法を守る」一点で結束し、合流した。昨年の二つの集会の参加者は計約5千人。実行委員会は「目標は1万人以上だったので3万人には驚いた。市民が危機感を抱いている表れだ」としている。

 呼びかけ人の一人として今年80歳になったノーベル賞作家の大江健三郎さんが登壇した。自衛隊と米軍の関係強化をうたった安倍晋三首相の米議会演説について「日本がアメリカの戦争に対して非常に力強い仲間になろうとしている」と指摘。戦争への不安も訴え、「私のような老人が人前に出て話をするのは最後。はっきりした意志を持ち、憲法を守る」と訴えた。

 また憲法学者の樋口陽一さんは、自衛隊の活動範囲を地球規模に広げようとする安保法制について「日本人が武器を持たずに(世界の)飢えや環境破壊を減らそうと地道な貢献をしてきたことが戦後の誇りだった。役割を超えた『国防軍』を世界に送り出そうとしている」と批判した。

 集会には、民主・共産・社民・生活の4野党の党首らも出席した。

 一方、改憲派は東京都千代田区でフォーラムを開き、約900人(主催者発表)が集まった。都道府県議会での改憲推進の意見書可決を提唱する日本会議を中心に昨秋発足した「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などが主催した。

 共同代表でジャーナリストの櫻井よしこさんは基調講演で「日本人らしくない憲法を戦後ずっと守ってきた。本当に悲しい」と切り出し、「米国は『外の紛争に巻き込まれたくない』という方向に変わってきた。中国の膨張も考えると、私たちが変わらねばならない」とし、自衛隊を軍隊として位置づけるなど改憲の必要性を訴えた。集会の最後には、百地章・日大教授が「戦後初めて憲法改正の環境が整おうとしている」として、衆参両院の憲法審査会に、憲法改正の国会発議に向けた取りまとめ作業を急ぐよう求めるなどとした声明を読み上げた。

 安倍首相の祖父、岸信介元首相が初代会長を務めた「新しい憲法をつくる国民会議」は東京都新宿区で大会を開き、約450人(同)が参加した。来賓の船田元・自民党憲法改正推進本部長は「9条改正は急務だが、もっと議論をしていただく必要があり、少し先の話になるのかなと思っている」と発言。「緊急事態条項」の追加などを先行させる、いわゆる「2段階戦略」の考え方を示した。
(西本秀、藤生明、福井悠介)