経産省、30年度の原発依存20%超、「可能な限り低減」は最小限に
  
         ロイター 2015年 04月 28日 18:57 JST

 
 
経済産業省は28日、2030年度の電源構成(エネルギーミックス)目標について、原発依存度を20─22%程度とする方針を示した。東京電力福島第1原発事故が発生した2010年度の依存度は28.6%。安倍晋三政権は「原発は可能な限り低減する」との方針だったが、縮小幅は最小限に止めたといえ、「原発回帰」の志向が鮮明となった格好だ。
 同日開催の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の「長期エネルギー需給見通し小委員会」に事務局案として提示し、出席した有識者から概ね了承を得て会合は終了した。
 30年の電源構成としては、再生可能エネルギー比率を22─24%程度とした。再生エネは水力を含めて10年度に9.6%、13年度は10.7%。このほか30年時点でLNG(液化天然ガス)比率は27%程度、石炭は26%程度とした。
 前提となる30年時点の総発電電力量は1兆650億キロワット時。省エネルギーを徹底することによって、自然体で推移した場合に比べて17%の省電力を実現するとしている。

<30年電源構成、経済性を重視>
 福島原発事故前は約3割あった原発依存度は、事故を契機に全国各地の原発が軒並み長期停止したことにより13年度は1.0%に落ち込んでおり、13年9月からは全国で原発稼働ゼロが続いている。
 代替する火力発電の燃料消費量増加に加え、安倍政権が打ち出した円安政策により燃料の輸入代金が上昇したことで、関西電力など原発依存度が高い電力会社を中心に業績悪化が長期化した。
 この結果、日本国内の電力料金は原発事故前に比べて産業用で3割弱、家庭用で2割弱上昇。経産省は、15年後の電源構成で経済性を重視したほか、運転時に温室効果ガスを排出しない原発の特性を生かす狙いで、構成比2割超とする原発回帰のシナリオを今回公表した。

<安倍政権の方針と矛盾>
 国民の間で原発への批判が根強い中で、政府は、昨年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、原子力規制委員会が定めた新規制基準に適合した原子炉は再稼働させるとしつつ、「原発は可能な限り低減する」としていた。
 2030年に原発比率を20─22%とすると、原則40年に定められている原発の稼働期間を延長するか、新増設や建て替えが必要になる計算で、安倍政権が昨年の基本計画で掲げた方針と矛盾するのは否定できない。
 仮に40年廃炉ルールを厳格に運用し、新増設や建て替えがない場合の30年時点原発依存度は15%程度となる。小委員会終了後、経産省資源エネルギー庁の吉野恭司審議官は、20─22%とする目標に届かない部分について、「運転延長はある程度想定している。新増設、建て替えは現時点で想定していない」と記者団に説明した。
 再生可能エネルギーについても安倍首相は、「最大限の導入を進める」(今年2月の施政方針演説)としたが、2009年4月に当時の麻生太郎首相が2020年で再生可能エネルギー20%とする目標を表明した点を踏まえると、30年時点で22─24%としたのは、最大限とは言い難い目標だ。
 この日の会合でも、再生可能エネルギーの目標値について出席委員からは、「30年22─24%という数値は、最大限入れていくという方向性から非常に物足りない」(橘川武郎・東京理科大学大学院教授)との批判の声が上がった。

<省エネの数字は過小評価>
 今回の電源構成について、エネルギー問題に詳しい2人の有識者に意見を聞いたところ、省エネの促進や再生可能エネルギーの普及、より性能の高い原発への切り替えを目指すという観点で、電源構成の経産省方針に対しぞれぞれ批判的な見方が示された。三菱総合研究所の小宮山宏理事長(元東京大学総長)は、将来の省電力の見積もりが過小評価である点を問題視する。「2030年に向けて電力消費が減っていく可能性が極めて高い。エネルギー効率が上がっているから電力消費が減っている。今後もその趨勢は変わらない」などと話した。
 経産省によると30年時点で省エネを徹底した場合の電力需要は約9810億キロワット時。「再生可能エネルギーは30%程度にすべき」と主張する小宮山氏は、総電力需要の想定について「8000億キロワット時は割り込む。7000億キロワット時くらいを目標とすべきだ」とみる。
 約1兆キロワット時とする経産省の需要想定に対して再生可能エネルギーが30%ならば、3000億キロワット時の電力量を賄う計算だ。小宮山氏が指摘する8000億キロワット時の総需要ならば、再生可能エネルギー比率が4割に近づく。
 小宮山氏は「電力の絶対量がどれくらいか、いつも過大に評価されることが最大の問題だ。供給者側は絶対量が減るのを嫌がるが、国として議論するならば、エネルギーの絶対量が減っていくと合理的に考えるべきだ」と述べた。

<軽水炉維持は妥当なのか>
 一方、元通産官僚でIEA(国際エネルギー機関)事務局長を経験した田中伸男・笹川平和財団理事長は、今回の電源構成について、国内商業用原子炉を占める軽水炉を温存する現状維持路線だと指摘する。「安全度の高さ、高レベル放射性廃棄物の処理、高い核不拡散性の条件を満たす原子力体制を目指さないと、国民は将来への不安を払しょくしない」と、ロイターの取材で述べた。
 こうした条件を満たす原子炉として田中氏は「統合型高速炉(IFR)」を挙げ、軽水炉を置き換えていく将来像を示すべきだと強調する。
 長期間停止中の高速増殖炉「もんじゅ」を連想させるが、田中氏は「もんじゅとは違う原子炉。ナトリウム冷却は同じだが、違いは燃料が酸化物ではなく金属であること。全電源喪失時の実験をやってみたら、(核分裂反応が)止まった」などと説明した。
 最終的に出てくる核のゴミの管理も、軽水炉の場合に求められる10万年から300年に短縮可能なうえ、燃料からプルトニウムだけ取り出して核爆弾にすることが難しくなることも利点だという。建設コストについても「軽水炉と変わらない」(田中氏)とする。
 一方、環境問題を専門とする作家・ジャーナリストのリチャード・シフマン氏は、昨年1月、ロイターに寄稿したコラムで、巨額の費用がネックになりIFRの建設は実現していないと指摘している。
*専門家の見解などを追加しました。
 (浜田健太郎 編集:田中志保)