特集:安全保障法制でどう変わる 拡大する自衛隊活動 (その1)
                毎日新聞 2015年05月15日 東京朝刊
 
 
 集団的自衛権の行使容認を含めた安全保障関連法案が14日、閣議決定された。成立すれば、自衛隊の任務は多分野にわたって飛躍的に拡大する。政府は「切れ目のない安保法制」で何を目指すのか。拡大する自衛隊任務のポイントを解説する。【飼手勇介、小田中大、当山幸都

◆武力攻撃事態法改正案】

◇集団的自衛権 「明白な危険」なお曖昧

 日本への武力攻撃があった場合を想定した武力攻撃事態法を改正し、集団的自衛権の行使を限定的に容認する規定が設けられた。

 憲法9条は戦争の放棄をうたっている。だが、政府は、自国が攻撃を受けた場合、自らを守るために武力を行使する個別的自衛権までは、憲法は禁じていないと解釈してきた。

 政府は集団的自衛権は認められないと解釈してきたが、近年、日米双方から、国連憲章に規定がある集団的自衛権についても行使を認めるべきだとの意見が出てきた。集団的自衛権とは、自国と関わりの深い国が攻撃された場合に、自国が攻撃されたものとみなして反撃する権利だ。

 日米安全保障条約の取り決め上、日本が攻撃された場合、同盟国である米国には日本防衛のため共に戦う義務がある。一方、米国が攻撃されても、日本は憲法解釈上、海外での武力の行使が禁じられており、反撃に参加することはできない。「これでは不公平ではないか」「同盟関係はこのままで維持できるのか」という問題意識から行使容認を求める声が出てきた。

 安倍晋三首相もこうした意見を持っていた一人で、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更に強い意欲を示してきた。2012年に首相に返り咲いて以降、有識者による検討や自民、公明両党による協議を踏まえ、昨年7月、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に踏み切った。

 容認はしたものの、全面的に認めたわけではなく、行使は限定的とした。武力攻撃事態法改正案で行使ができるのは、他国が攻撃され、これにより「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合とし、こうしたケースを新たに「存立危機事態」と位置付けた。

 しかし、どういう場合が存立危機事態に該当するかや「明白な危険」とはどういう状況を指すのかは曖昧さが残っている。

 首相は、朝鮮半島有事などで日本人を運ぶ米軍艦船を防護する場合や、日本に原油を運ぶタンカーが通る中東・ホルムズ海峡が機雷により封鎖され、これを取り除く掃海活動などを挙げてきた。ただ、公明党はホルムズ海峡が封鎖され日本が経済的な打撃を受けただけでは、存立危機事態には該当しないと主張する。

 日米両政府が先月合意した新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)では、米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊が迎撃することや、戦時下に米国の敵国船舶に対し強制的な船舶検査(臨検)を行うことも、集団的自衛権の行使として想定していることが示された。

 ◆重要影響事態法案

 ◇世界規模で後方支援

 朝鮮半島有事や台湾海峡有事などで米軍が軍事介入した場合に、自衛隊が米軍を後方支援するための現行法が周辺事態法だ。政府は「周辺事態は地理的な概念ではない」と説明する一方で、「中東やインド洋で起きることは想定されない」(当時の小渕恵三首相)と国会で答弁した経緯があり、事実上は日本周辺を想定した法律と受け止められてきた。

 今回の法整備では、「周辺事態」の概念を廃止し、放っておけば日本に大きな影響を及ぼす「重要影響事態」に改めるため、周辺事態法を改正する。

 日本周辺かどうかではなく、日本への影響の大きさで、自衛隊を派遣するか判断することになる。地理的制約は事実上なくなることから、地球規模での派遣が可能になる。支援対象も米軍だけではなく、同じ活動に参加する他国軍も支援できるようにした。

 活動場所は、あらかじめ線引きをして立ち入らない地域を設け、他国軍の武力行使と一体化しないようにする従来の考え方を改め、「現に戦闘行為が行われている場所」でなければ、どこででも活動可能とした。戦場の前線により近い場所で自衛隊が活動できるようになり、後方支援活動の危険性が高まることになる。

 ◆自衛隊法改正案

 ◇日本人救出可能に

  2013年にアルジェリアで起きた日本人人質事件を契機に、海外でテロなどに巻き込まれた日本人を自衛隊が救出するための法整備の検討が進められてきた。輸送任務に限り認めていたが、法改正で救出活動も可能になる。ただ、当事国が事件発生現場を実効支配していることと、当事国が自衛隊の受け入れに同意していることが条件となる。一義的には現地警察や軍が担当することになるため、派遣されるのは極めてまれなケースになりそうだ。

 政府が想定しているのは、海外で大規模災害が発生した後、現地の警察や軍が対応に忙殺され、日本人が誘拐されても手が回らないようなケース。海外の日本大使館や日本の航空機が人質事件の現場となり、自衛隊による救出活動の方が効果があると当事国側も同意したような場合だ。
※右の写真=2013年に起きたアルジェリアの人質事件で、現場近くで警戒に当たる武装した地元警察官=秋山信一撮影

 ◇グレーゾーンに対応

 沖縄県・尖閣諸島をめぐる領有権問題を発端に、離島防衛などの際に武力攻撃には至っていないものの緊張が高まっている「グレーゾーン事態」にどう対応するかに注目が集まった。今回の安保法制では、平時から有事まで「切れ目のない」日米協力を目指しており、グレーゾーン事態での米軍への協力規定が新たに設けられた。

 日本への武力攻撃が起きた場合には、自衛隊が米軍の艦船などを守ることは可能だが、まだ攻撃されていない段階では、米軍を守る根拠がなかった。

 日米が協力して国籍不明の武装勢力に対処するような事態があれば不都合が生じるため、自衛隊が武器などを守るための自衛隊法95条を改正。共同訓練を含め、日本の防衛に資する活動に参加している米軍やその他の軍隊を普段から防護するための規定を設けた。北朝鮮による弾道ミサイル発射を警戒している米軍の艦船を自衛隊の艦船が守ることも可能になる。

 武力攻撃がない段階で、日米が長期にわたり警戒監視にあたっている場合などに、自衛隊から米軍に燃料や物資を提供することを可能にする規定も盛り込まれた。

 ◆国際平和支援法案

 ◇いつでも迅速に派遣

 重要影響事態法案とは別に、自衛隊が他国軍の後方支援を行うための国際平和支援法案が新設される。

 政府はこれまで、自衛隊を派遣する度に特別措置法を制定して対応してきた。迅速に対処できるようにするために、あらかじめ国際的な活動に派遣できるようにしておく恒久法の制定は、政府の長年の悲願だった。インド洋で海上自衛隊が給油などの補給活動を行うために、旧テロ対策特措法を制定したが、今後は法整備は不要になる。

 重要影響事態法案は日米安保を「中核」とする活動を念頭に置いたもので、対米支援の色合いが濃い。これに対し、国際平和支援法案による支援は、テロなどの脅威を取り除くために国際社会が協力して行う活動への参加であり、支援対象は参加している外国軍全般になる。

 自衛隊による支援の内容は、補給、輸送、医療、基地業務など重要影響事態法案とほぼ同じだが、国際平和支援法案には、建設が追加された。

 与党協議では公明党が、日本と直接的な関わりが薄い国際的な活動への参加は、より厳格な歯止めが必要だと求めた。このため、派遣の際の国会承認は、重要影響事態法案は「原則事前承認」だが、国際平和支援法案では「例外なき事前承認」となった。首相から承認を求められた国会は衆参両院で各7日以内、計14日以内に議決する努力義務規定が盛り込まれた。
※右上の写真=04年、アラビア海に派遣された海上自衛隊の補給艦ときわ(手前)から燃料の補給を受ける英国海軍艦=平井桂月撮影

 ◆PKO協力法改正案

 ◇治安維持担い、危険増し

 現在も自衛隊は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の国連平和維持活動(PKO)に参加し、避難民を保護するための土地の整備などを担当している。これまで自衛隊によるPKOはこうした施設部隊によるインフラ整備が中心だった。

 政府はPKO参加時の武器の使用を正当防衛など身を守る場合に限って認め、本来のPKO活動にある住民の安全を確保するための治安維持活動などへの参加は見送ってきた。治安維持活動などでは、武器を使う相手が国や国に準じる組織だと、海外での武力行使に該当する恐れがあると判断していたからだ。

 ただ、PKO活動の積み重ねで、武器使用基準を緩和しても問題ないと政府は判断。任務遂行を邪魔する者への警告射撃を認める。他国軍や国連関係者らが武装勢力に取り囲まれた場合に、現場に行って警護に当たる「駆け付け警護」もできるようにする。欧州連合(EU)が行う活動など、国連主導ではない国際平和活動に参加し、治安維持任務を行うことなどを可能とする。

 活動の枠組みは大きく広がることになりそうだが、それはより危険度の高い任務を担当することを意味する。派遣時の治安などに関する情報収集、隊員の安全確保にこれまで以上の注意が必要となる。
※右上の写真=14年、アフリカ・南スーダンでのPKOから帰国し、完了報告に臨む陸自南スーダン派遣施設隊=兵庫県伊丹市で、高尾具成撮影

◆船舶検査活動法改正案

 ◇国際平和活動も対象

 日本周辺で有事となれば、兵器などを輸送する船舶を検査し、米軍を支援するのが現行の船舶検査活動法だ。法改正では、法律の目的を拡大し、国際社会の平和のための活動を加えた。テロリストが核兵器関連物資や弾道ミサイルなどを運ぶ船舶などが対象になる。

 海上自衛隊の艦船は現在も東アフリカ・ソマリア沖で海賊船の取り締まりを行っている。日本から現地への移動時も含めて、たまたま不審船の近くにいて、他国から船舶検査を行うよう要請を受けることも絵空事とは言い切れない。

 ただ、こうした状況で、武器を使っていきなり船に乗り込む強制的な検査は見送られた。船舶検査の際、船長の同意が必要になる。

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 ◇戦後70年の日米同盟 冷戦終結、関係が変質

 安倍政権が安全保障法制の整備に乗り出したのには、日米同盟強化という狙いがある。関連法案が成立すれ、世界規模で自衛隊と米軍の協力関係が深まる。日米が戦後、敵国から同盟関係へと変容を遂げた中、米国の世界戦略の変化に伴い、自衛隊が姿を変えてきた歴史がある。

 自衛隊は、朝鮮戦争が始まった1950年に警察予備隊として発足。52年に保安隊、54年に陸海空自衛隊に衣替えした。欧州とともにアジアが冷戦の主戦場となり、米国の意向を受けた事実上の「再軍備化」だった。冷戦時代を通じて自衛隊に求められたのは、日本に力の空白が生じ、ソ連に侵攻されるような隙(すき)を与えないことだった。

 冷戦終結後、米国の日本への要求は大きく変わる。90年にイラクがクウェートに侵攻し、翌年には湾岸戦争が始まる。米国は日本に軍事的な貢献を求めた。日本は憲法9条を理由に戦時派遣は見送った。130億ドルを超える財政支援を行い、終戦後は海上自衛隊の掃海艇をペルシャ湾に派遣したが、クウェートが謝意を示した国の中に日本は含まれていなかった。

 国際社会から孤立することへの懸念が高まり、国際貢献の在り方を巡る議論が本格化。92年に国連平和維持活動(PKO)協力法が成立し、カンボジアでPKOに初めて自衛隊が参加した。

 90年代には朝鮮半島や台湾海峡で緊張が高まった。96年の日米安保共同宣言で、日米同盟を日本防衛のためだけではなく、アジア太平洋の安定のためにあるものと再定義した。周辺事態法など米軍支援の法律が整備された。

 自衛隊の運用能力が高まると、米側の期待が膨らんだ。象徴となったのが2000年に発表された日米同盟に関する提言書「アーミテージ報告書」。後に国務副長官を務めるアーミテージ氏や米ハーバード大のナイ教授らがまとめた報告書は、日米同盟を米英同盟並みの軍事同盟に発展させることを理想に掲げ、集団的自衛権の行使を求めた。

 01年9月11日に米同時多発テロが発生。日本はテロ対策特別措置法を制定し、インド洋で対テロ作戦を行う多国籍軍艦船への補給活動を実施。イラク戦争では、イラク復興特別措置法をつくり、輸送支援や人道復興支援に踏み切った。米側の要望に応えた対応は事実上の戦地派遣だった。

 オバマ政権はアジア太平洋を重視するリバランス(再均衡)政策を掲げてはいるが、中東情勢の悪化や国防費削減の圧力にもさらされた。中国の軍事力の増強と挑発的な行動を懸念する日本側から、日米同盟強化の協議を持ちかけた。その結果、先月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)の見直しにつながった。新指針の協議は、安保法制の見直しと同時並行で進められた。安保関連法案も日米同盟強化の色合いが濃い内容になった。

特集:安全保障法制でどう変わる 拡大する自衛隊活動(その2止)

毎日新聞 2015年05月15日 東京朝刊

 ■武力攻撃事態法改正案(要旨)

 第一条(目的)

 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう)及び存立危機事態への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための体制を整備し、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。

 第二条(定義)

 一 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。

 二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。

 三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。

 四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。

 第三条(基本理念)

 1?3(略)

 4 存立危機事態においては、存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。

 第九条(対処基本方針) 政府は、武力攻撃事態等または存立危機事態に至ったときは、武力攻撃事態等または存立危機事態への対処に関する基本的な方針を定めるものとする。

 2 対処基本方針に定める事項は次のとおりとする。

 一 対処すべき事態に関する次に掲げる事項

 イ 事態の経緯、事態が武力攻撃事態であること、武力攻撃予測事態であることまたは存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実

 ロ 事態が武力攻撃事態または存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由

 ■自衛隊法改正案(要旨)

 第七十六条(防衛出動) 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部または一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態法九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

 一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

 二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

 第八十四条の三(在外邦人等の保護措置)

 防衛大臣は、外務大臣から外国における緊急事態に際して生命または身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命または身体の保護のための措置を行うことの依頼があった場合において、外務大臣と協議し、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に当該保護措置を行わせることができる。

 一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。

 二 自衛隊が当該保護措置を行うことについて、当該外国の同意があること。

 三 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と第一号に規定する当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

 第九十四条の五(在外邦人等の保護措置の際の権限)

 第八十四条の三第一項の規定により外国の領域において保護措置を行う職務に従事する自衛官は、同項第一号及び第二号のいずれにも該当する場合であって、その職務を行うに際し、自己若しくは当該保護措置の対象である邦人若しくはその他の保護対象者の生命若しくは身体の防護またはその職務を妨害する行為の排除のためやむを得ない必要があると認める相当の理由があるときは、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条または第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

 第九十五条の二(合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器使用)

 自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人または武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条または第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

 2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があった場合であって、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。

 ■重要影響事態法案(要旨)

 第一条(目的)

 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)に際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日米安全保障条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

 第二条(重要影響事態への対応の基本原則)

 1・2(略)

 3 後方支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為が行われている現場では実施しないものとする。

 4 外国の領域における対応措置については、当該対応措置が行われることについて当該外国の同意がある場合に限り実施するものとする。

 第三条(定義等)

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 合衆国軍隊等 重要影響事態に対処し、日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織をいう。

 二 後方支援活動 合衆国軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、我が国が実施するものをいう。

 第五条(国会の承認)

 基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する後方支援活動、捜索救助活動または船舶検査活動については、内閣総理大臣は、これらの対応措置の実施前に、これらの対応措置を実施することにつき国会の承認を得なければならない。ただし、緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで当該後方支援活動、捜索救助活動または船舶検査活動を実施することができる。

 第六条(自衛隊による後方支援活動としての物品及び役務の提供の実施)

 1?3(略)

 4 防衛大臣は、実施区域の全部または一部において、自衛隊の部隊等が第三条第二項の後方支援活動を円滑かつ安全に実施することが困難であると認める場合または外国の領域で実施する当該後方支援活動についての第二条第四項の同意が存在しなくなったと認める場合には、速やかに、その指定を変更し、またはそこで実施されている活動の中断を命じなければならない。

 5 第三条第二項の後方支援活動のうち我が国の領域外におけるものの実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の長またはその指定する者は、当該後方支援活動を実施している場所またはその近傍において、戦闘行為が行われるに至った場合または付近の状況等に照らして戦闘行為が行われることが予測される場合には、当該後方支援活動の実施を一時休止するなどして当該戦闘行為による危険を回避しつつ、前項の規定による措置を待つものとする。

 ■国際平和支援法案(要旨)

 第一章 総則

 第一条(目的)

 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(以下「国際平和共同対処事態」という。)に際し、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことにより、国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

 第二条(基本原則)

 政府は、国際平和共同対処事態に際し、この法律に基づく協力支援活動若しくは捜索救助活動または重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律(平成十二年法律第百四十五号)第二条に規定する船舶検査活動(以下「対応措置」という。)を適切かつ迅速に実施することにより、国際社会の平和及び安全の確保に資するものとする。

 2 対応措置の実施は、武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならない。

 3 協力支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたは物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われている現場では実施しないものとする。ただし、第八条第六項の規定により行われる捜索救助活動については、この限りでない。

 4 外国の領域における対応措置については、当該対応措置が行われることについて当該外国の同意がある場合に限り実施するものとする。

 5 内閣総理大臣は、対応措置の実施に当たり、第四条第一項に規定する基本計画に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する。

 6 関係行政機関の長は、前条の目的を達成するため、対応措置の実施に関し、防衛大臣に協カするものとする。

 第三条(定義等)

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 諸外国の軍隊等 国際社会の平和及び安全を脅かす事態に関し、次のいずれかの国際連合の総会または安全保障理事会の決議が存在する場合において、当該事態に対処するための活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織をいう。

 イ 当該外国が当該活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、または認める決議

 ロ イに掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威または平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取り組みを求める決議

 二 協力支援活動 諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供であって、我が国が実施するものをいう。

 三 捜索救助活動 諸外国の軍隊等の活動に際して行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、その捜索または救助を行う活動(救助した者の輸送を含む。)であって、我が国が実施するものをいう。

 2?3 (略)

 第二章 対応措置等

 第四条(基本計画)

 内閣総理大臣は、国際平和共同対処事態に際し、対応措置のいずれかを実施することが必要であると認めるときは、当該対応措置を実施すること及び当該対応措置に関する基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

 2 基本計画に定める事項は、次のとおりとする。

 一 国際平和共同対処事態に関する次に掲げる事項

 イ 事態の経緯並びに国際社会の平和及び安全に与える影響

 ロ 国際社会の取り組みの状況

 ハ 我が国が対応措置を実施することが必要であると認められる理由

 二 前号に掲げるもののほか、対応措置の実施に関する基本的な方針

 三 前条第二項の協力支援活動を実施する場合における次に掲げる事項

 イ 当該協力支援活動に係る基本的事項

 ロ 当該協力支援活動の種類及び内容

 ハ 当該協力支援活動を実施する区域の範囲及び当該区域の指定に関する事項

 ニ 当該協力支援活動を自衛隊が外国の領域で実施する場合には、当該協力支援活動を外国の領域で実施する自衛隊の部隊等の規模及び構成並びに装備並びに派遣期間

 ホ 自衛隊がその事務または事業の用に供しまたは供していた物品以外の物品を調達して諸外国の軍隊等に無償または時価よりも低い対価で譲渡する場合には、その実施に係る重要事項

 へ その他当該協力支援活動の実施に関する重要事項

 四 捜索救助活動を実施する場合における次に掲げる事項

 イ?ホ (略)

 五 船舶検査活動を実施する場合における重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律第四条第二項に規定する事項

 六 対応措置の実施のための関係行政機関の連絡調整に関する事項

 3 協力支援活動または捜索救助活動を外国の領域で実施する場合には、当該外国と協議して、実施する区域の範囲を定めるものとする。

 4 (略)

 第五条(国会への報告) 内閣総理大臣は、次に掲げる事項を、遅滞なく、国会に報告しなければならない。

 一 基本計画の決定または変更があったときは、その内容

 二 基本計画に定める対応措置が終了したときは、その結果

 第六条(国会の承認)

 内閣総理大臣は、対応措置の実施前に、当該対応措置を実施することにつき、基本計画を添えて国会の承認を得なければならない。

 2 前項の規定により内閣総理大臣から国会の承認を求められた場合には、先議の議院にあっては内閣総理大臣が国会の承認を求めた後国会の休会中の期間を除いて七日以内に、後議の議院にあっては先議の議院から議案の送付があった後国会の休会中の期間を除いて七日以内に、それぞれ議決するよう努めなければならない。

 3 内閣総理大臣は、対応措置について、第一項の規定による国会の承認を得た日から二年を経過する日を超えて引き続き当該対応措置を行おうとするときは、当該日の三十日前の日から当該日までの間に、当該対応措置を引き続き行うことにつき、基本計画及びその時までに行った対応措置の内容を記載した報告書を添えて国会に付議して、その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合または衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会においてその承認を求めなければならない。

 4 政府は、前項の場合において不承認の議決があったときは、遅滞なく、当該対応措置を終了させなければならない。

 5 前二項の規定は、国会の承認を得て対応措置を継続した後、更に二年を超えて当該対応措置を引き続き行おうとする場合について準用する。

 第七条(協力支援活動の実施) (略)

 第八条(捜索救助活動の実施等) (略)

 第九条(自衛隊の部隊等の安全の確保等) (略)

 第十条(関係行政機関の協力) (略)

 第十一条(武器の使用) 第七条第二項(第八条第八項において準用する場合を含む。第五項及び第六項において同じ。)の規定により協力支援活動としての自衛隊の役務の提供の実施を命ぜられ、または第八条第一項の規定により捜索救助活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、自己または自己と共に現場に所在する他の自衛隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命または身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器(自衛隊が外国の領域で当該協力支援活動または当該捜索救助活動を実施している場合については、第四条第二項第三号ニまたは第四号ニの規定により基本計画に定める装備に該当するものに限る。以下この条において同じ。)を使用することができる。

 2 前項の規定による武器の使用は、当該現場に上官が在るときは、その命令によらなければならない。ただし、生命または身体に対する侵害または危難が切迫し、その命令を受けるいとまがないときは、この限りでない。

 3 第一項の場合において、当該現場に在る上官は、統制を欠いた武器の使用によりかえって生命若しくは身体に対する危険または事態の混乱を招くこととなることを未然に防止し、当該武器の使用が同項及び次項の規定に従いその目的の範囲内において適正に行われることを確保する見地から必要な命令をするものとする。

 4 第一項の規定による武器の使用に際しては、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条または第三十七条の規定に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

 5 第七条第二項の規定により協力支援活動としての自衛隊の役務の提供の実施を命ぜられ、または第八条第一項の規定により捜索救助活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、外国の領域に設けられた当該部隊等の宿営する宿営地であって諸外国の軍隊等の要員が共に宿営するものに対する攻撃があった場合において、当該宿営地以外にその近傍に自衛隊の部隊等の安全を確保することができる場所がないときは、当該宿営地に所在する者の生命または身体を防護するための措置をとる当該要員と共同して、第一項の規定による武器の使用をすることができる(以下略)。

 6 (略)

 第三章 雑則

 第十二条(物品の譲渡及び無償貸し付け)(略)

 第十三条(国以外の者による協力等)(略)

 第十四条(請求権の放棄)(略)

 第十五条(政令への委任)(略)

  付則

 この法律は、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律の施行の日から施行する。

 ■国連平和維持活動協力法改正案(要旨)

 第一条(目的)

 この法律は、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動、人道的な国際救援活動(略)に適切かつ迅速な協力を行うため、(略)これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もって我が国が国際連合を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的とする。

 第三条(定義)

 一(略)

 二 国際連携平和安全活動 国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議、別表第一に掲げる国際機関が行う要請または当該活動が行われる地域の属する国の要請に基づき、紛争当事者間の武力紛争の再発の防止に関する合意の順守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持することを目的として行われる活動であって、二以上の国の連携により実施されるもののうち、次に掲げるものをいう。

 イ 武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合に、いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施される活動

 ロ 武力紛争が終了して紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在しなくなった場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に実施される活動

 ハ 武力紛争がいまだ発生していない場合において、当該活動が行われる地域の属する国の当該活動が行われることについての同意がある場合に、武力紛争の発生を未然に防止することを主要な目的として、特定の立場に偏ることなく実施される活動

 第二十六条(武器の使用) (略)自衛官は、その業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産を防護し、またはその業務を妨害する行為を排除するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができる。

 別表第一(第三条など関係)

 一 国際連合

 二 国際連合の総会によって設立された機関または国際連合の専門機関で、国際連合難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの

 三 国際連携平和安全活動に係る実績若しくは専門的能力を有する国際連合憲章五十二条に規定する地域的機関または多国間の条約により設立された機関で、欧州連合その他政令で定めるもの

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 ◇審議される11本の安保関連法案

<新たに整備>

・国際平和支援法案

<現行法を改正>

・自衛隊法改正案

・国連平和維持活動(PKO)協力法改正案

・重要影響事態法案(周辺事態法を改正)

・船舶検査活動法改正案

・武力攻撃事態法改正案

・米軍行動関連措置法改正案

・特定公共施設利用法改正案

・海上輸送規制法改正案

・捕虜取り扱い法改正案

・国家安全保障会議(NSC)設置法改正案