派遣法改正案:契約期限を事実上撤廃…3回目の審議入り
    毎日新聞 2015年05月12日 21時42分(最終更新 05月13日 08時38分)

 
 労働者派遣法改正案は12日の衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。改正案は同じ職場での派遣労働者の受け入れ期限を事実上、撤廃する規制緩和策。「臨時の仕事」という派遣労働の性格が変わる可能性があり、労働者側や民主党など野党は強く反発している。政府側は、過去2回の廃案に続き3回目の審議となる今国会での成立にこだわる。その背景には、民主党政権時代の法改正で盛り込まれた規制強化策を「骨抜き」にする狙いがある。

 「労働者派遣法が改正されずに平成27年10月1日を迎えた場合の問題(いわゆる10・1問題)」

 こんな表題の付いた資料が4月に入って与党議員の間に出回った。「10・1問題」とは、10月1日に「労働契約申込みみなし制度」が施行されることを指す。期間制限の3年を超えるなどの違法派遣があった場合、労働者を受け入れている派遣先が派遣労働者に直接雇用の契約を申し込んだとみなす制度だ。民主党政権時代の2012年に労働者保護のために改正された。

 資料には「厚労省内において作成」と出所が書かれ、法改正されなければ「大量の派遣労働者が失業、派遣業界に大打撃となり、派遣先の経営にも支障が生じる」と危機感をあらわにし、今国会での改正案成立を迫っている。

 資料で特に問題視されているのは通訳や秘書など派遣期間に制限のない専門26業務だ。26業務として派遣されている労働者が「データの単純入力をしている」「お茶くみ、電話番、書類整理までさせられる」などと訴え、26業務でないと判断されれば3年を超えた時点で企業は直接雇用を迫られる。トラブル回避のために制度スタート前に企業がこぞって派遣の受け入れをやめ、大量の失業者が出る??という理屈だ。

 専門26業務を廃止する今回の改正案が成立し、予定通り9月1日に施行されれば、みなし制度による混乱は回避できる。だから、今国会が事実上最後の機会だ、と厚生労働省側は訴えてきた。資料の存在が発覚し、塩崎恭久厚労相は12日の参院厚労委員会で「適切でない、客観性に欠ける表現」と認めざるを得なかった。資料から大量失業などの問題となる部分は削られた。

 今国会を「デッドライン」とする政府・与党に対し、民主、共産、社民などの野党は3回目の廃案に追い込みたい構えだ。12日の衆院本会議で、民主党の大西健介氏は「正社員になれず、一生派遣で働く若者を増やす法改正は間違っている」とただした。一方、安倍晋三首相は「派遣元の責任を強化し、派遣就労への固定化を防ぐ措置を強化した。一生派遣の労働者が増えるとの指摘は不適切だ」と反論し、対決姿勢が鮮明になった。

 改正案は昨年の通常国会で条文ミスが判明し廃案に追い込まれた。その後の臨時国会でも塩崎氏の答弁ミスで審議が紛糾するなどして再び廃案に。厚労省担当課長が今年1月、派遣労働者について「モノ扱いだったのが、ようやく人間扱いする法律になってきた」と発言していたことが明らかになっており、野党は攻勢を強める考えだ。ただ、維新の党は「同一労働・同一賃金」を推進する法案を準備したうえで、改正案への賛成に含みを残している。【堀井恵里子、東海林智】

 ◇労働者派遣法改正案◇

 現行では通訳や秘書などの専門性の高い26業務は無期限で派遣労働者を受け入れられるが、その他の業務は最長3年までとなっている。改正案は、専門26業務を廃止し、受け入れ期間を一律に最長3年とする。併せて、3年を超えて同じ仕事に派遣労働者を使えない現在の仕組みも改め、人を代えれば派遣を使い続けられるようにする。一方、派遣会社側にはキャリアアップのための教育訓練の実施や、3年を迎えた労働者の雇用安定のための措置などを義務づけている。