●高浜再稼働差し止め、原告「最高の内容」 
自治体反発も

     朝日新聞 2015年4月15日01時36分

●後段に再稼働差し止めに関する、主要新聞の社説を掲載しています。
 民意を左右する天下の公器がこんなにも違うことをご確認ください。

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高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分決定が出て、幕を出して
喜ぶ申立人と弁護団ら=14日午後2時16分、福井市の福井地裁、
筋野健太撮影


 「原子炉を運転してはならない」。福井地裁は14日の仮処分決定で、福井県高浜町の関西電力高浜原発3、4号機の再稼働禁止を命じた。原発の運転を即時に差し止める初の司法判断に、申し立てが認められた住民らは喜びにわいた。一方、再稼働に期待する地元自治体からは反発の声が上がり、戸惑いが広がった。

 仮処分決定が申立人側に伝えられた直後、申立人代表で福井県敦賀市議の今大地(こんだいじ)晴美さん(64)らが、福井地裁の入り口から笑顔で駆け下りてきた。

 「司法はやっぱり生きていた!!」。勢いよく幕を掲げると、関西や九州などから駆けつけた約150人の支援者から「おめでとう」「よく頑張った」と歓声と拍手がわいた。弁護団共同代表の河合弘之弁護士は、「最高の内容」とひときわ大きな声をあげた。

 申立人らは近くの会場で記者会見に臨み、「最大の特徴は(福島原発の事故後に原子力規制委員会がつくった)新規制基準の不備を厳しくつき、無効性を明らかに宣言したこと」とする声明文を読み上げた。河合弁護士は「原発の規制基準を作り直すところから出直せというのが裁判所のメッセージだ」と指摘した。同じ弁護団共同代表の海渡雄一弁護士は「宝物のような決定だ」と笑顔を見せた。

 「喜んでくれていると思う」。申立人副代表を務める大阪府高槻市の水戸喜世子さん(79)は、記者会見で夫の遺影を掲げ、声を震わせた。芝浦工業大教授だった夫の巌さんは「脱原発」の草分けとして知られ、各地の訴訟で「原発事故は広い範囲に被害を与える」と証言してきた。

 水戸さんは福井地裁が昨年5月に関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを命じた裁判の原告でもある。樋口英明裁判長が判決で「原発の危険性の本質、その被害の大きさは福島の原発事故で十分に明らかになった。危険性の判断を避けることは裁判所の責務の放棄だ」と述べたことに胸を打たれ、中国語や韓国語などに翻訳してネットで発信した。

 しかし、関電は判決を不服としてすぐに控訴。再稼働に向けて手続きを進める姿勢が許せず、今回の仮処分の申立人になった。「科学者は100%安全だと保証できないものは動かしてはならない」。元京都大助手で物理学者でもある水戸さんは力を込める。

 弁護団の中には表情を引き締める人もいた。福井地裁前で喜ぶ支援者らの輪にいた地元の笠原一浩弁護士(39)は「戦いはこれから」と話した。

 2011年3月の東京電力福島第一原発事故から8カ月後。「脱原発」を掲げるグループに、福井県内の原発を止める訴訟を起こすよう呼びかけた。全国で原発を再稼働しないよう求める訴訟が相次いで起こされる中、「立地県の福井が声を上げなくてどうする」と思ったからだった。

 京都大理学部を卒業後、福祉施設で働いたが、環境に関する法律に興味を持って弁護士の道に進んだ。いまの活動拠点は、原発が立地し、弁護士が不足する県南部の敦賀市。「原発がいかに環境を汚染するか、福島の事故が証明した。原発は止めるべきだが、その後の地域経済を支援するのも僕の仕事だと思っている」

 申立人側は15日、各地の原発の再稼働審査を中止し、新規制基準を作り直すよう原子力規制委員会に申し入れる予定だ。

■地元の高浜町長は反発

 地元の福井県高浜町では決定に衝撃が走った。

 野瀬豊町長は「司法の判断は別の土俵のご判断だと思う。私は自分が責任を持たされているフィールドで判断していく」と述べ、5月以降に再稼働の同意の判断をする考えを強調した。また、「司法の判断ですべての動きを止めることになれば、原発の問題はすべて裁判所に決定してもらうということになってしまう。行政としての責務や役割を放棄することになりかねない」と反発した。

 高浜原発は2012年2月に3号機が定期検査で停止して以降、全基の停止が続く。国の新規制基準への対応工事で再び原発関連の仕事が増え、昨年12月時点で約3千人が高浜原発に出入りしたが、工事は今年3月で一段落し、再び試練の時期を迎えている。

 3月に再稼働に同意した町議会の的場輝夫議長(70)は「町内の事業者はもう少しの辛抱だと、かろうじて持ちこたえてきた。仮処分で今後の先行きが見通せなくなり、廃業を検討する業者も出てくるだろう」と不安を語る。

 今月12日の統一地方選で4選を果たした福井県の西川一誠知事は「政府は、原子力規制委によって安全性が確認された原発について再稼働を進めるという方針。これまで通り、国や事業者の対応状況等を十分確認し、安全確保を最優先に慎重に対応していく」とコメントした。

■隣県・滋賀では決定評価

 高浜原発が近くにあるのに再稼働の判断に関与できない自治体からは、決定を歓迎する声が上がった。

 福井県に隣接する滋賀県の三日月大造知事は「人格権や原発の安全性に重きを置いた決定」と評価した。避難計画の策定が義務づけられる30キロ圏内に県北部の高島市が入る。原子力規制委の新規制基準が「合理性を欠く」と指摘されたことについて、「今の原子力行政にとって重大な問題提起だ」と述べた。

 高浜原発から最短で42キロの大津市の越直美市長も「市民の不安が反映された内容」と評価し、「市民が原発の安全性に不安を持っている状況で再稼働すべきではない。国は新基準について再考すべきだ」とのコメントを発表した。

 一方、重大事故時に即時避難が必要な5キロ圏に市域の一部が入る京都府舞鶴市は再稼働の際の同意権を求めている。多々見良三市長は「国や事業者は高浜原発の安全性について国民に理解を得られるよう丁寧な説明を行う必要がある。引き続き市民の安全・安心の確保に向けて取り組む」とコメントした。

■原発立地自治体は…

 他の原発立地自治体は、今回の決定が再稼働に与える影響に注目する。

 九州電力川内原発がある鹿児島県薩摩川内市では、22日に1、2号機の再稼働差し止め仮処分の決定が出る予定となっている。岩切秀雄市長は、決定について「コメントは差し控える」としながら、昨年11月に大津地裁が同様の申し立てを却下したことに触れ、「司法の判断が割れている。川内原発に関する同様の申し立てについて、どのような判断が下されるのか注視したい」との談話を出した。

 再稼働に向けて審査が進む四国電力伊方原発が立つ愛媛県伊方町の山下和彦町長は「司法の判断に対し、行政の私が意見することはない」と報道陣に語った。

 一方、東京電力柏崎刈羽原発を抱える新潟県の泉田裕彦知事は「コメントは控える」としながらも、「原発の安全確保には、東電福島第一原発事故の検証、総括が不可欠。それなしに策定された規制基準では安全性は確保できない」と指摘する談話を発表した。

■福島離れた被災者は…

 福井県に避難中の原発事故の被災者は、福井地裁の決定を喜んだ。

 川崎葉子さん(64)は福島第一原発から約3キロの福島県双葉町の自宅から福井県坂井市に避難している。「被災者の一人として歴史的な決定を見守りたい」と福井地裁前に駆けつけた。

 自宅がある場所には、除染で出た土などを保管する中間貯蔵施設が造られる。もとの自宅の近くに住みたいと、来年3月に福島県いわき市に移り住むという。

 川崎さんは「決定はうれしい」。そして続けた。「ある日突然、ふるさとを追われ、まったく違う人生を歩まなければいけなくなった。できれば事故の前に、こういう決定が出てほしかった」

●「新基準、合理性欠く」高浜原発差し止め
仮処分決定要旨

朝日新聞 2015年4月14日16時34分

 関西電力高浜原発3、4号機の再稼働をめぐり、即時差し止めを命じた14日の福井地裁(樋口英明裁判長)仮処分決定の要旨全文は次の通り。

 @基準地震動である700ガルを超える地震について

 基準地震動は原発に到来することが想定できる最大の地震動であり、基準地震動を適切に策定することは、原発の耐震安全性確保の基礎であり、基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。

 しかし、全国で20カ所にも満たない原発のうち四つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が2005年以後10年足らずの間に到来している。本件原発の地震想定が基本的には上記四つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づいてなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず関西電力の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見いだせない。

 加えて、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と答えている。地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見いだし難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる。

 基準地震動を超える地震が到来すれば、施設が破損するおそれがあり、その場合、事態の把握の困難性や時間的な制約の下、収束を図るには多くの困難が伴い、炉心損傷に至る危険が認められる。

 A基準地震動である700ガル未満の地震について

 本件原発の運転開始時の基準地震動は370ガルであったところ、安全余裕があるとの理由で根本的な耐震補強工事がなされることがないまま、550ガルに引き上げられ、更に新規制基準の実施を機に700ガルにまで引き上げられた。原発の耐震安全性確保の基礎となるべき基準地震動の数値だけを引き上げるという対応は社会的に許容できることではないし、関電のいう安全設計思想と相いれないものと思われる。

 基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは関電においてこれを自認しているところである。外部電源と主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿である。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備はこれを安全上重要な設備であるとして、その役割にふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備でないとする関電の主張は理解に苦しむ。関電は本件原発の安全設備は多重防護の考えに基づき安全性を確保する設計となっていると主張しているところ、多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる。

 基準地震動である700ガル未満の地震によっても冷却機能喪失による炉心損傷に至る危険が認められる。

 B冷却機能の維持についての小括

 日本列島は四つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が我が国の国土で発生し、日本国内に地震の空白地帯は存在しない。関電は基準地震動を超える地震が到来してしまった他の原発敷地についての地域的特性や高浜原発との地域差を強調しているが、これらはそれ自体確たるものではないし、我が国全体が置かれている上記のような厳然たる事実の前では大きな意味を持つこともないと考えられる。各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険である。

 C使用済み核燃料について

 使用済み核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない。使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。また、使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性もBクラスである。

 D被保全債権について

 本件原発の脆弱(ぜいじゃく)性は、@基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施するA外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにするB使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むC使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また、地震の際の事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに、原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である。

 規制委が設置変更許可をするためには、申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は、当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため、原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある(最高裁判所1992年10月29日第一小法廷判決、伊方最高裁判決)。そうすると、新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく住民らが人格権を侵害される具体的危険性すなわち被保全債権の存在が認められる。

 E保全の必要性について

 本件原発の事故によって住民らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、規制委の設置変更許可がなされた現時点においては、保全の必要性も認められる。

高浜原発差し止め―司法の警告に耳を傾けよ
2015年4月15日(水)付

 原発の再稼働を進める政府や電力会社への重い警告と受け止めるべきだ。

 福井地裁が関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を禁じる仮処分決定を出した。直ちに効力が生じ、今後の司法手続きで決定の取り消しや変更がない限り再稼働はできなくなった。

 裁判所が仮処分で原発の運転を認めないという判断を示したのは初めてだ。高浜3、4号機は原子力規制委員会が「新規制基準を満たしている」と、事実上のゴーサインを出している。

 福島での事故後、規制当局も立て直しを迫られ、設置されたのが規制委である。その規制委が再稼働を認めた原発に、土壇場で司法がストップをかけた。国民に強く残る原発への不安を行政がすくい上げないとき、司法こそが住民の利益にしっかり目を向ける役割を果たす。そんな意図がよみとれる。

■新規制基準への疑問

 注目したいのは、規制委の新規制基準に疑義を呈した点だ。

 規制委は、最新の知見に基づいて基準を強化した場合、既存原発にも適用して対策を求めることにした。再稼働を進めようとする政治家らからは「世界一厳しい基準」などの言説も出ている。

 しかし、今回の決定は「想定外」の地震が相次ぎ、過酷事故も起きたのに、その基準強化や電力会社による対策が、まったく不十分と指摘している。

 地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発に5回も起きた事実を重くみて、「基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは楽観的見通しにすぎない」と断じた。再稼働の前提となる新規制基準についても「緩やかにすぎ、これに適合しても原発の安全性は確保されていない」とまで指摘、「新基準は合理性を欠く」と結論づけた。

■燃料プールの安全性

 また決定は、燃料プールに保管されている使用済み核燃料の危険性についても触れた。

 格納容器のような施設に閉じ込められていないことを指摘して、国民の安全を最優先とせず「深刻な事故はめったに起きないという見通しにたっている」と厳しく批判した。

 そして@基準地震動の策定基準の見直しA外部電源等の耐震性強化B使用済み核燃料を堅固な施設で囲むC使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性強化――の必要性をあげ、4点が解決されない限り脆弱(ぜいじゃく)性は解消しないと指摘した。

 これらはいずれも全国の原発に共通する問題だ。

 政府内では、2030年に向けた電源構成を決める議論が続いている。電源ごとの発電コストについても再検証中だ。

 04年時に1キロワット時あたり5・9円だった原発コストは、事故直後に8・9円以上とされた。電力各社は規制委の新基準に沿った安全対策費としてすでに2兆円以上を投じてきているが、今回の決定に則して対策の上積みを迫られれば、費用はさらに上昇しかねない。

 関電は決定に対し、不服申し立ての手続きをする意向だ。

 もちろん規制委も電力会社も、専門的な立場から決定内容に異論があるだろう。

 だが、普通の人が素朴に感じる疑問を背景に、技術的な検討も加えたうえで「再稼働すべきでない」という結論を示した司法判断の意味は大きい。裁判所の目線は終始、住民に寄り添っていて、説得力がある。

■立ち止まって考える

 今回のような司法判断が定着すれば多くの原発で再稼働ができなくなる。電力会社にとっては受け入れ難いことだろう。

 だが、原発に向ける国民のまなざしは「福島以前」より格段に厳しいことを自覚するべきではないか。

 今回の決定を導いたのは、昨年5月に大飯原発の運転差し止め判決を出した樋口英明裁判長だ。この判決について、経済界などから「地震科学の発展を理解していない」などと批判もあった。現在は、名古屋高裁金沢支部で審理が続いている。

 しかし、決定を突出した裁判官による特異な判断と軽んじることは避けたい。

 それを考える材料がある。

 昨年11月、大津地裁で高浜、大飯の原発再稼働の是非を問う仮処分申請の決定が出た。同地裁は運転差し止め自体は却下したものの「多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることに、合理性はあるのか」と指摘し、今回と同様、基準地震動の設定のあり方について疑問を呈していた。

 政府や電力会社の判断を追認しがちだった裁判所は、「3・11」を境に変わりつつあるのではないか。

 安倍政権は「安全審査に合格した原発については再稼働を判断していく」と繰り返す。

 そんな言い方ではもう理解は得られない。司法による警告に、政権も耳を傾けるべきだ。


読売新聞社説
高浜差し止め 規制基準否定した不合理判断
2015年04月15日 01時27分

 合理性を欠く決定と言わざるを得ない。

 定期検査で運転停止中の関西電力高浜原子力発電所3、4号機に関し、福井地裁が再稼働差し止めを命じる仮処分を決定した。

 関電が決定を不服としているのは、もっともである。

 原子力規制委員会は2月、高浜3、4号機の再稼働に向けた合格証にあたる「審査書」を関電に交付した。東京電力福島第一原発事故後に厳格化された新規制基準を満たしていると結論づけた。

 新基準は、地震や津波の想定を拡大し、これを大幅に上回った際の対策を求めている。

 ところが、樋口英明裁判長は新基準の考え方を否定し、「これに適合しても安全性は確保されていない」と断じた。ゼロリスクを求めた非現実的なものだ。

 1年7か月にわたる高浜原発の安全審査で、関電は想定地震の規模を引き上げた。

 旧基準時の2倍近い揺れに耐えられるよう、配管などを耐震補強し、最高6・7メートルの津波に耐えられる防潮堤を設けた。非常用の電源や冷却設備も整備した。

 樋口裁判長は、この想定を「楽観的見通しにすぎない」と否定した。対策についても、「根本的な耐震補強工事がなされていない」との見方を示した。

 最高裁は1992年の四国電力伊方原発訴訟で、原発の安全審査は、「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との判決を言い渡した。

 規制委の結論を覆した今回の決定が、最高裁判例を大きく逸脱しているのは明らかだ。

 樋口裁判長は昨年5月、福井県の大飯原発3、4号機の訴訟でも、運転再開差し止めを命じている。福井地裁には民事部門が一つしかない。再稼働に反対する住民側は同様の判断を期待し、同じ裁判長が、これに応えたのだろう。

 福島第一原発の事故後、原発再稼働に関し10件の判決・決定が出たが、差し止めを認めたのは樋口裁判長が担当した2件しかない。偏った判断であり、事実に基づく公正性が欠かせない司法への信頼を損ないかねない。

 仮処分では、差し止めの効力が直ちに生じる。11月を目指している高浜原発の再稼働が大幅に遅れることが懸念される。

 関電は、決定に対する異議などを福井地裁に申し立てる。今後、決定が取り消されることを前提に、関電は、保守点検体制の強化などを着実に進めるべきだ。

毎日新聞社説
高浜原発差し止め 司法が発した重い警告

 2015年04月15日 02時33分(最終更新 04月15日 06時18分)

 関西電力高浜原発(福井県)3、4号機に対し、福井地裁は再稼働を認めない仮処分決定を出した。原子力規制委員会の安全審査に合格した原発の再稼働についての初の司法判断だったが、決定は審査の基準自体が甘いと厳しく指摘した。

 私たちは再生可能エネルギー拡大や省エネ推進、原発稼働40年ルールの順守で、できるだけ早く原発をゼロにすべきだと主張してきた。それを前提に最小限の再稼働は容認できるとの考え方に立っている。

 それに対し、決定が立脚しているのは地震国・日本の事情をふまえると、原発の危険をゼロにするか、あらゆる再稼働を認めないことでしか住民の安全は守れないという考え方のようだ。

 確かに事故が起これば、広範な住民の生命・財産・生活が長期に脅かされる。そうした危険性を思えば、現状のなし崩し的な再稼働の動きは「安全神話」への回帰につながるという司法からの重い警告と受け止めるべきだ。

 決定は新基準に対して、適合すれば深刻な災害を引き起こす恐れが万が一にもないと言える厳格さが求められると指摘した。事実上、原発の再稼働にゼロリスクを求めるに等しい内容だ。

 関電は規制委への申請後、想定する地震の最大の揺れ「基準地震動」を550ガルから700ガルに、最大の津波の高さ「基準津波」を5.7メートルから6.2メートルに引き上げ、安全性を高めたと強調した。

 しかし、決定は全国の原発で10年足らずに5回、基準地震動を超える地震が起きており、高浜でもその可能性は否定できないと指摘。このままでは施設が破損して炉心損傷に至る危険が認められると結論付けた。

 そのうえで、基準地震動を大幅に引き上げて根本的な耐震工事を施し、外部電源と主給水の耐震性を最高クラスに上げ、使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むことでしか、危険は解消できないと指摘した。

 関電は11月の再稼働を見込んで手続きを進める予定だったが、日程の見直しを迫られかねない。

 今回の決定が示した考え方は、再稼働を目指そうとする国内の多くの原発にあてはまる。関電の大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた昨年5月の福井地裁判決と同じ裁判長の決定で、共通した安全思想が根底にあるようだ。

 原発再稼働の是非は国民生活や経済活動に大きな影響を与える。ゼロリスクを求めて一切の再稼働を認めないことは性急に過ぎるが、いくつもの問題を先送りしたまま、見切り発車で再稼働をすべきでないという警鐘は軽くない

日本経済新聞社説

福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い
2015/4/15付

 関西電力の高浜原子力発電所3、4号機について、福井地裁が再稼働を差し止める仮処分を決めた。同原発は2月に国の安全審査に合格し、関電は11月にも再稼働をめざしていた。仮処分はすぐに効力が生じ、高裁などで覆らない限り再稼働できなくなった。

 訴訟では、福井県の地元住民らが高浜原発は地震の想定が甘く安全対策が不十分と主張。関電は安全性を確保していると反論したが、地裁は「重大事故に至る危険がある」と差し止めを命じた。

 東京電力福島第1原発の事故後、原発をめぐり各地で同様の訴訟が起きている。再稼働の可否は安全性に加え、地元住民や国民の利益にかなうかなど多様な観点から判断すべき問題だ。行政や原子力規制委員会だけでなく、司法も役割を担ってしかるべきだろう。

 だが今回の地裁決定には、疑問点が多い。

 ひとつが安全性について専門的な領域に踏み込み、独自に判断した点だ。決定は地震の揺れについて関電の想定は過小で、揺れから原発を守る設備も不十分とした。

 これらは規制委の結論に真っ向から異を唱えたものだ。福島の事故を踏まえ、原発の安全対策は事故が起こりうることを前提に、何段階もの対策で被害を防ぐことに主眼を置いた。規制委は専門的な見地から約1年半かけて審査し、基準に適合していると判断した。

 今回の決定を下した裁判長は昨年5月、関電大飯原発についても「万一の事故への備えが不十分」として差し止め判決を出した。原発に絶対の安全を求め、そうでなければ運転を認めないという考え方は、現実的といえるのか。

 差し止め決定へのもうひとつの疑問は、原発の停止が経済や国民生活に及ぼす悪影響に目配りしているようにみえないことだ。

 国内の原発がすべて止まり、家庭や企業の電気料金は上がっている。原発ゼロが続けば、天然ガスなど化石燃料の輸入に頼らざるを得ず、日本のエネルギー安全保障を脅かす。だが決定はこうした点について判断しなかった。

 関電は今回の決定に対し不服を申し立てる。今後、高裁の判断に委ねられる公算が大きい。

 原発の再稼働をめぐり司法は何を判断すべきか。安全性、電力の安定供給、経済への影響などを含めて総合的に判断するのが司法の役割ではないか。上級審などではそれを踏まえた審理を求めたい。

東京新聞社説

国民を守る司法判断だ 高浜原発「差し止め」
2015年4月15日

 関西電力高浜原発(福井県高浜町)の再稼働は認めない−。福井地裁は、原子力規制委員会の新規制基準を否定した。それでは国民が守られないと。

 仮処分は、差し迫った危険を回避するための措置である。通常の訴訟とは違い、即座に効力を発揮する。

 高浜原発3、4号機は、動かしてはならない危ないもの、再稼働を直ちにやめさせなければならないもの−。司法はそう判断したのである。

 なぜ差し迫った危険があるか。第一の理由は地震である。

 電力会社は、過去の統計から起こり得る最大の揺れの強さ、つまり基準地震動を想定し、それに耐え得る備えをすればいいと考えてきた。

◆当てにならない地震動

 原子力規制委員会は、新規制基準による審査に際し、基準値を引き上げるよう求めてはいる。

 関電は、3・11後、高浜原発の基準地震動を三七〇ガルから七〇〇ガルに引き上げた。

 しかし、それでも想定を超える地震は起きる。七年前の岩手・宮城内陸地震では、ひとけた違う四〇二二ガルを観測した。

 「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と地震学者の意見も引いている。

 日本は世界で発生する地震の一割が集中する世界有数の地震国である。国内に地震の空白地帯は存在せず、いつ、どこで、どんな大地震が発生するか分からない。

 だから基準地震動の考え方には疑問が混じると判じている。

 司法は次に、多重防護の考え方を覆す。

 原発は放射線が漏れないように五重の壁で守られているという。

 ところが、原子炉そのものの耐震性に疑念があれば、守りは「いきなり背水の陣」になってしまうというのである。

 また、使用済み核燃料プールが格納容器のような堅固な施設に閉じ込められていないという点に、「国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性がある」と、最大級の不安を感じている。

 福島第一原発事故で、最も危険だったのは、爆発で屋根が破壊され、むき出しになった4号機の燃料プールだったと、内外の専門家が指摘する。

 つまり、安全への重大な疑問はいくつも残されたままである。ところが、「世界一厳しい」という新規制基準は、これらを視野に入れていない。

◆疑問だらけの再稼働

 それでも規制委は新基準に適合したと判断し、高浜原発は秋にも再稼働の運びになった。

 関電も規制委も、普通の人が原発に対して普通に抱く不安や疑問に、しっかりとこたえていないのだ。従って、「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険」があると、福井地裁は判断した。新規制基準の効力や規制委の在り方そのものを否定したと言ってもいいだろう。

 新規制基準では、国民の命を守ることができないと、司法は判断したのである。

 昨年五月、大飯原発(福井県おおい町)3、4号機の差し止めを認めた裁判で、福井地裁は、憲法上の人格権、幸福を追求する権利を根拠として示し、多くの国民の理解を得た。生命を守り、生活を維持する権利である。国民の命を守る判決だった。

 今回の決定でも、“命の物差し”は踏襲された。

 命を何より大事にしたい。平穏に日々を送りたい。考えるまでもなく、普通の人が普通に抱く、最も平凡な願いではないか。

 福島原発事故の現実を見て、多くの国民が、原発に不安を感じている。

 なのに政府は、それにこたえずに、経済という物差しを振りかざし、温暖化対策なども口実に、原発再稼働の環境づくりに腐心する。一体誰のためなのか。

 原発立地地域の人々も、何も進んで原発がほしいわけではないだろう。仕事や補助金を失って地域が疲弊するのが怖いのだ。

 福井地裁の決定は、普通の人が普通に感じる不安と願望をくみ取った、ごく普通の判断だ。だからこそ、意味がある。

◆不安のない未来図を

 関電は異議申し立てをするという。しかし司法はあくまで、国民の安全の側に立ってほしい。

 三権分立の国である。政府は司法の声によく耳を傾けて、国民の幸福をより深く掘り下げるべきである。

 省エネと再生可能エネルギーの普及を加速させ、新たな暮らしと市場を拓(ひら)いてほしい。

 原発のある不安となくなる不安が一度に解消された未来図を、私たちに示すべきである。