●「残業代ゼロ」法案要綱、労政審が答申

2015322158分 


 
長時間働いても残業代などが払われない新しい働き方をつくる労働基準法改正案の要綱について、厚生労働省労働政策審議会は2日、「おおむね妥当」として、塩崎恭久厚労相に答申した。8年前に同様の制度を断念した安倍政権は、来年4月の実施に向けて今国会で改正案の成立を目指す。

 「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれるこの働き方に対し、「『残業代ゼロ』になり働きすぎを助長する」と労働組合は批判する。2日の審議会でも、答申には「いまの制度でも成果と報酬を連動させることは可能」などと労組代表の反対意見が併記された。
似た制度は、2006〜07年の第1次安倍政権でも「ホワイトカラー・エグゼンプション」として検討された。この時は管理職手前の労働者が対象だったが、「過労死を招く」と世論が猛反発。夏の参院選を前に与党議員からも反対の声が出て、法案提出は見送られた。

安倍首相は先月20日の衆院予算委員会で「グローバルに活躍する高度専門職に絞っている。今度のは全く別物だ」と強調。働き手の同意を得ることや、働き過ぎを防ぐ仕組みを強化したことも挙げ、批判をかわそうとする。

しかし、民主党共産党などの野党は「成果が出るまで働かされ、長時間労働につながる」などと批判を強める。厚労省は3月下旬に労働基準法などの改正案を提出する予定だが、国会での審議は難航が予想される。(平井恵美)

■<解説>導入ありき、議論不十分

「高度プロフェッショナル制度」は、一定の条件に当てはまる労働者を労働時間の規制対象から外すもので、8年前に断念したホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の一種だ。

成長戦略の目玉として新制度の議論が始まったのは昨年9月。半年足らずで結論が出たのは、通常国会で法改正を目指すスケジュールも含め、昨年6月の閣議決定ですでに導入が決まっていたからだ。

WEは米国で導入され、日本よりも労働時間規制が厳しい欧州諸国にも、規制の対象外になっている人はいる。企業はもちろん、とことん仕事をしたい人も新制度を歓迎するだろう。

しかし、制度設計をめぐる議論は十分だったのか。対象業務として想定されるアナリストなどで、年収1075万円以上の人が実際にどう働いているのか、無理な働き方を強いられないのか、働き手はどう考えているのか――。審議会では丁寧な議論はなかった。

今ある制度との関係も不明確だ。あらかじめ労働時間を想定する裁量労働制などホワイトカラー向けの制度はすでにある。制度を統一するべきだという専門家は多いのに、逆に裁量労働制も広げることになった。

労働時間規制は働く人の健康を守るためにある。働き方の変化に合わせて規制を変えても、穴を開けることは許されない。 (編集委員・沢路毅彦