今月から新たな安全保障法制の整備に向けた与党協議が再開された。昨年7月の閣議決定と同月中旬にあった衆参予算委員会の質疑では、集団的自衛権の行使容認をめぐる憲法解釈の大枠が確認され、公明党はこれを「歯止め」と受け止めてきた。だが、今回はそれ以外のテーマから協議が始められ、踏み込み不足だった質疑の隙を突くかのように政府側は次々と新たな提案を繰り出している。

 ■具体例なし、詳細先送り

 「昨年7月の閣議決定と、それに関する衆参予算委員会の首相と内閣法制局長官の答弁を的確に反映した法整備が必要だ」

 公明党の山口那津男代表は与党協議が始まった今月13日、こう語った。安保関連法案は昨年の閣議決定と国会答弁から逸脱すべきでないとの訴えだ。だが、山口氏のいう「歯止め」とは、集団的自衛権の行使容認をめぐる論点に重点が置かれていた。

 昨年7月1日の閣議決定を受けて、衆参両院の予算委員会では同月14、15両日、それぞれ約7時間ずつ集中審議が行われた。公明党は与党協議メンバーの北側一雄副代表と西田実仁参院幹事長を質問者とし、安倍晋三首相や横畠裕介内閣法制局長官に説明を求めた。

 公明側はとりわけ憲法解釈をめぐる論点に質問を集中。北側、西田両氏とも約50分の質問時間の多くを集団的自衛権を行使する際の要件や定義の質疑に充てた。一方で、今回の与党協議で政府側がこれまでに提案している自衛隊の海外派遣に関する恒久法(一般法)の制定や周辺事態法の抜本改正をめぐる質疑はほとんどなされなかった。

 当時の予算委審議で、首相は海外派遣について「自衛隊が武力行使を目的に戦闘に参加することは決してない」と強調した。だが、「支援活動の実施に関する具体的な手続きは法整備作業の中で十分検討していきたい」と詳細は先送り。武器防護の対象国拡大の是非や、邦人救出における武器使用基準緩和についても質問されたが、答弁は閣議決定の説明にとどまっていた。

 議論が先送りされたことを逆手に取るかのように、政府側は今月20日の与党協議で自衛隊海外派遣に関する恒久法制定や周辺事態法の抜本改正などを次々に提案。政府側は「切れ目のない法制整備」「一国のみでは平和を守れない」といった原則論から出来る限り自衛隊の活動の幅を広げ、外交・安全保障政策の選択肢を増やそうと試みる。

 こうした提案に、公明側は過去の経緯との整合性や自衛隊の海外活動をどこまで広げるのか、政府側に詳しい説明を求める方針だ。

 ■重ねた議論、なお隔たり

 今回の与党協議でまだ議論が始まっていない集団的自衛権の行使容認をめぐり、公明側は昨年7月の予算委質疑で突っ込んだ議論を重ねた。

 どのようなケースが集団的自衛権行使の要件に当たるのか――。公明側の質問に、首相は「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」と答えた。日本が直接攻撃された時に反撃できる個別的自衛権と「同様な」状況との答弁だった。公明側は「(国連憲章が認める)いわゆる集団的自衛権は認めていない」(山口氏)という閣議決定の「歯止め」を明確にできたと受け止めた。

 ただ、具体的にどんな事態を想定しているかについて、政府側は「具体の当てはめは、なかなか答弁が難しい」(横畠氏)との説明にとどめた。

 かなり議論を重ねた集団的自衛権の行使容認をめぐっても、踏み込み不足だった点が今になって、政府側と公明側の考えの隔たりとなって現れている。

 首相は今月16日の衆院本会議で、日本が輸入する原油の8割が中東・ホルムズ海峡を通過していると指摘。機雷によって同海峡が封鎖されれば、「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様に深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況に当たりうる」として、停戦前の機雷除去は集団的自衛権行使の具体例としてあり得ると訴えた。

 これに対し、公明側は「その可能性は極めて低い」(幹部)と反論する。昨年7月の首相答弁により、集団的自衛権が行使できるのは我が国が武力攻撃を受けた状況と「同様な被害」がある場合ということでは一致したが、何が「同様な被害」に当たるかという解釈が違っているのだ。

 こうした相違はありながら、安保論議が統一地方選に与える影響を避けるため、自公両党は3月下旬までには基本方針をまとめる見通しだ。公明側には早くも「歯止め」の限界を意識した声が漏れる。党幹部はこう話す。「何ができて何ができないのか。結局それは、その時の政府の政策的な判断だ」

 (石松恒、池尻和生)