写真・図版 菅義偉官房長官は19日の記者会見で、安倍晋三首相が戦後70年の今年中に出す「安倍談話」について検討する有識者懇談会のメンバー16人を発表した。西室泰三・日本郵政社長(79)が座長に就任する見通しで、25日に初会合を開き、夏をめどに議論をまとめ、首相に報告する。首相は懇談会の議論を踏まえ、談話の作成に当たることになる。

70年談話、座長に西室・日本郵政社長 有識者会議

 懇談会の名称は「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会」(略称・21世紀構想懇談会)で、首相の諮問機関と位置づけた。菅氏は会見で「先の大戦への反省、戦後平和国家としての歩み、今後日本はアジア太平洋地域や世界にどう貢献していくか。世界に発信できるようなものを英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいきたい」と述べた。

 西室氏は日中の有識者でつくる「新日中友好21世紀委員会」の日本側座長を務めた。座長代理には、集団的自衛権の行使をめぐる首相の私的諮問機関で座長代理を務め、首相に近い北岡伸一・国際大学学長(66)を充てる。

 メンバーにはほかに、首相に近い国際政治学者の中西輝政・京大名誉教授(67)が入ったほか、三菱商事会長で経団連副会長の小島順彦氏(73)、外務省OBの岡本行夫氏(69)と宮家邦彦氏(61)、元防衛大学校長の西原正氏(77)らが名前を連ねた。メディアからは飯塚恵子・読売新聞アメリカ総局長、山田孝男・毎日新聞政治部特別編集委員が入った。

 菅氏は有識者懇談会の役割について、「談話を書くことを目的にしたものではない。政府が談話の具体的内容を検討するに当たり、意見を伺いたい」と説明。最終的に談話を作るのは、あくまでも政府だとの考えを強調した。

 首相は第2次政権が発足した直後から、談話を出すことや有識者会議を設置する意向を示してきた。その理由について、首相周辺は「未来志向の新たな談話を出すことは第1次政権からの悲願であり、国民の理解が得られる進め方を首相はずっと考えていた」と周到な準備があったことを打ち明ける。

 戦後50年の村山談話でも60年の小泉談話でもこうした有識者会議は開かれておらず、小泉内閣の元高官は「首相の談話を出す際に有識者会議を置く理由が分からない」と語る。

 首相官邸は首相が1月の年頭会見で有識者会議の設置を表明したことを受け、人選作業に着手した。菅氏は会見で「懇談会では多様な視点から議論をいただくので、幅広い分野の様々な方々に委員の就任をお願いした」と説明。首相に考えの近い有識者だけでなく、バランスを重視した人選であることを強調した。

 官邸関係者は「そもそも幅広い意見を出してもらうための懇談会だ。安倍首相に近いブレーンで固めるという選択肢はなかった」と語る。

 首相はこれまで、70年談話について、「侵略」「心からのおわび」などを明記した戦後50年の村山談話や60年の小泉談話を「全体として引き継ぐ」と語っている。一方で、文言をそのまま継承することには慎重な姿勢を示しており、首相個人の考えが談話にどこまで反映されるのかが新たな談話の焦点になっている。

 過去の談話を大きく書き換えることへの懸念は、与党内からも上がっている。公明党の山口那津男代表は18日、有識者懇談会の議論を「見守る」としつつ、「我々としては、まったく意味の変わるものにならないようにコンセンサスを作るべきだと申し上げた。そこは踏まえた上で対応されると思っている」と牽制(けんせい)した。(冨名腰隆、藤原慎一)