チャイナセンセーション:第1部 一帯一路の行方(その1)  原発協力、日本に打診 中国企業、輸出拡大狙い
(その2) 核拡散、安全不安抱え

          
   毎日新聞2015年12月30日
 
 核兵器や原子力潜水艦の開発をかつて手がけた中国の原発メーカーが、日本の複数の大手電機メーカーの経営トップと極秘裏に接触し、原発輸出での協力を打診していたことが分かった。原発輸出を巡る中国の軍需企業と日本企業との水面下でのやり取りが明らかになった。【中国取材班】

経済界、関心と警戒

 11月13日、東京都文京区のホテル椿山荘東京。広い庭園を高台から見渡せる会議室に、日本と中国の政府高官OB、企業経営者ら約110人が集まった。中国から曽培炎(そうばいえん)元副首相、日本側からは福田康夫元首相や林幹雄経済産業相らが顔をそろえ、前日のレセプションには安倍晋三首相も飛び入りであいさつに訪れた。

 新たな日中交流の場として開かれた「日中企業家及び元政府高官対話(日中CEO等サミット)」。その中国側メンバーの中に大手原発メーカー2社のトップ、中国核工業集団の銭智民社長と国家電力投資集団の王炳華会長の姿があった。和やかなムードで幕を閉じた日中CEO等サミット。だが、原発メーカーのトップ2人には、この会合とは別に重要な任務があった。日本でのわずか数日の滞在期間中、2人は活発に都内や関東一円を動き回った。

 「海外での原発建設に力を貸してほしい」。2人は日本の大手電機メーカーに原発輸出での協力を打診していた。

 核工業集団の銭社長は電機大手の日立製作所を訪問、原発輸出時に不可欠な地盤調査から建設資材の調達、建設工程や保守点検まで広範にわたる分野で協力を求めた。複数の関係者によると銭社長は中国政府が原発輸出を加速させる中、輸出先での安全審査への対応が遅れることを以前から懸念していたという。電力投資集団の王会長は電力大手Jパワー(電源開発)と日立のほか、東芝も訪問。銭社長と同様に原発輸出への技術面での協力を打診した。

 規制当局の厳しい審査への対応や綿密な建設計画作りは、日本メーカーの得意分野だ。建設の手順を効率化することで工期を短縮し、3Dを用いて建設工程を再現するきめ細かい品質管理の技術も持っている。

 面会した日本メーカーのトップは「輸出経験が乏しく、中国企業はどうしたらいいか分からないのでは」と事情を推し量り、「我々にとっていろいろな意味でチャンスになる」と協力に前向きな姿勢を示した。

 核工業集団は、核兵器や原子力潜水艦の開発を担う中国政府の核工業省から独立した中国10大軍需企業の一つ。輸出用の最新型原子炉「華竜1号」を開発・建設しているほか、使用済み核燃料の再処理工場や、核廃棄物を地中深くに埋める最終処分場の建設準備も進めている。電力投資集団は今年7月に国有大手の原発メーカー2社が合併して誕生した巨大企業だ。

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 中国政府が掲げるアジアから欧州に至る経済圏「一帯一路」構想。その柱となるのがインフラ輸出であり、なかでも受注金額の大きい原発の輸出に対する中国政府の期待は並々ならぬものがある。

 中国の原子力産業協会などによると、中国国内で稼働中の原発は28基で、建設中の原発も27基ある。今後5年で発電能力を約3倍に増やし、世界第2位のフランスに迫る計画。さらに、2030年までに世界60カ国で200基超の原発建設を計画しているという。10月に輸出が決まった英国のほかにも南アフリカやケニア、スーダンなどの新興・途上国への輸出計画を進めており、一帯一路の構想通りに自国の影響力を拡大し原発大国への道をひた走る。

 一連の中国の動きには、日米両政府内から施設の安全性や核拡散に対する強い懸念の声が上がっている。中国から日本への協力打診の話を聞いた財界幹部は「それは無理だ。アメリカの了解を取らないと」と即座に否定的な見解を示した。日本は安全保障で米国に依存しており、核技術の取り扱いは極めてデリケートな問題だ。「中国のメーカーと原発技術を共有するなんてありえない」。複数の経産省幹部も技術流出の危険性を念頭に日中企業の協力を言下に否定した。

 だが、対象が原発であるだけに、逆に話は複雑だ。日本企業が関わらなかったとしても、中国は世界中で原発輸出を推進する構えを崩さないとみられる。放っておいても中国の原発は世界中に拡散し続けることになる。

 別の経産省幹部は「問題は見返りになにを取れるかだ。これから中国に建てる原発を全部日本に任せてもらえるなら日本の安全のためにも一番よい。中国で事故が起きれば放射能は日本にも来るのだから」とささやいた。

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 2015年、中国経済の変調は世界のマーケットを揺さぶり、中国の海洋進出は米国などとの摩擦につながった。中国の動向は今後も、隣国・日本、そして世界に波紋(センセーション)を巻き起こしそうだ。第1部は古代シルクロードに重なる中国の「一帯一路」構想の行方を追う。


 ■ことば

「一帯一路」構想

 2013年秋、中国の習近平国家主席が提唱した国家戦略。歴史上の東西交易ルート「シルクロード」にちなみ、中国から中央アジアを経由して欧州に至る陸路の「シルクロード経済ベルト」、南シナ海やインド洋を経由する「21世紀海上シルクロード」からなる。沿線国を中心に道路や発電所などのインフラを整備し、貿易や人的交流の促進を目指す。


(その2) 核拡散、安全不安抱え