国と沖縄の係争 門前払いは役割放棄だ
           毎日新聞 2015年12月26日 

 米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる国と沖縄県の攻防は法廷に全面的に移行した。総務省所管の第三者機関「国地方係争処理委員会」が沖縄県の申し立てを却下した。県は国を相手取り、名護市辺野古への移設阻止を目指し、提訴した。

 国と地方の争いを審査、調停するはずの係争委が県の主張を実質審議せず、門前払いした対応には疑問がある。調整機能の不在を露呈したと言わざるを得ない。

 国と沖縄県が双方を訴え合う、異例の構図である。係争委が早々に結論を出し、年明けとみられた国への提訴は前倒しされた。翁長雄志知事は記者会見で「委員会の存在意義を自ら否定しかねず、誠に遺憾だ」と批判した。

 石井啓一国土交通相は10月、翁長知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しの効力を停止することを決めた。沖縄防衛局の申し立てを受け、行政不服審査法に基づく手続きだった。沖縄県は「違法な決定」として、第三者機関である係争委に審査を申し出ていた。

 ところが、係争委は県の申し立ては審査対象にあたらないとして却下してしまった。小早川光郎委員長は「一般的に、行政不服審査法に基づく決定は、審査対象にあてはまらない」と説明している。

 確かに不服審査請求に対する裁決や決定は審査対象外と法律は定める。だが今回、民間ではなく国の機関である沖縄防衛局が執行停止を申し立てた異例さを沖縄県は強調し、違法性を主張していた。小早川委員長は「一見明白に不合理ではない」と特例扱いを認めなかったが、門前払いが妥当だったか疑問が残る。

 却下を決めた係争委の会合は約6時間半議論しても意見が一致せず、多数決に踏み切った。委員間でどんな具体的なやり取りがあったかは不明だ。県の申し立てを正面から受け止め、実質審査するのが責任ある対応だったのではないか。

 国地方係争処理委員会は2000年に発足した。同年に施行された地方分権一括法がうたった国と地方の対等、協力関係の理念を保障する制度のひとつと位置づけられている。

 だが、中央官庁である総務省に置かれているため、役割を果たせるかも疑問視されている。実際、地方が審査を申し出た例は今回も含め3件にとどまる。だからこそ、国と地方が基地問題をめぐって対立した今回は試金石だった。

 国と地方の争いを調整するきちんとした枠組みがないまま、対立が深みにはまっていく。係争委の対応も含めて国に一貫して欠如しているのは、沖縄の主張に耳を傾け、対話しようとする姿勢である。