社説:高浜で逆転決定 絶対安全の保証でない

          
   毎日新聞2015年12月25日

 福井地裁が関西電力高浜原発(福井県)3、4号機の再稼働を差し止めた仮処分決定を取り消した。地元同意手続きは完了しており、関電は九州電力川内原発1、2号機に続く運転再開に向けて準備を進める。

 運転を禁じた4月の仮処分決定に関電が異議を申し立て、別の裁判長が審理した。新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査の判断に合理性があるかが争点となった。

 今回の決定は、原発施設の耐震性評価に最新の科学的、技術的知見が反映され、規制委に高度の専門性、独立性があるとし、新基準による審査は合理性があると判断した。関電側の主張を認め、安全性に欠ける点があるとは言えないと結論付けた。

 一方、運転差し止めを命じた仮処分決定は、深刻な災害が万が一にも起きない厳格さを新基準に求めた。事故のリスクがわずかでもあれば運転を認めないという考えに基づく判断だが、今回はそれを全面的に覆した。東京電力福島第1原発事故を受けて原発の安全を巡る司法の評価は定まっていないとも言えよう。

 過去の訴訟で裁判所は原発の安全性を自ら判断するのに消極的だった。1992年の四国電力伊方原発訴訟最高裁判決が「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との見解を示し、その枠組みが守られてきた。

 ところが福島原発事故は、国の審査に合格しても事故は起き、多数の住民の生命が脅かされることを明らかにした。行政側の判断について裁判所は、より厳しく審査する必要があるのではないか。

 関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた昨年5月の福井地裁判決は高浜原発差し止めを命じたのと同じ裁判長だが、住民の生命を守る人格権を優先して「具体的危険性が万が一でもあれば差し止めが認められる」と述べた。大津地裁は昨年11月、大飯、高浜原発の差し止め仮処分申請を退けつつ「避難計画策定が進まなければ再稼働はあり得ない」と早急な再稼働にくぎを刺した。

 しかし、川内原発の再稼働差し止めを却下した今年4月の鹿児島地裁決定は、新基準に不合理な点はなく規制委の審査も妥当と判断した。今回の福井地裁決定も規制委の裁量を広く認めており、従来の消極的姿勢に戻る傾向が見られる。

 関電は3号機の原子炉に核燃料を装着し来年1月下旬の再稼働を目指す。今回の福井地裁決定は「過酷事故が起こる可能性が全く否定されるものではない」とも述べ、国や電力会社に避難計画を含めた重層的な対策を求めた。そうした対策を取らない限り再稼働はできないはずだ。