米軍普天間飛行場の名護市辺野古への「県内移設」計画をめぐり、国が翁長雄志知事を福岡高裁那覇支部に提訴した問題に関する新聞各社の社説     
    2015年11月18日 毎日新聞、東京新聞,朝日新聞   11月19日 読売新聞


毎日新聞社説:辺野古で提訴 対話解決を放棄した国

 沖縄の基地問題をめぐる国と県の対立は、法廷に持ち込まれる異例の事態となった。

 米軍普天間飛行場の移設計画で、翁長雄志(おなが・たけし)知事が名護市辺野古の埋め立て承認を取り消したことに対し、国は福岡高裁那覇支部に訴訟を起こした。国が知事に代わって取り消し処分を撤回する代執行ができるよう求めている。本来は話し合いで解決すべき問題であり、法廷闘争に発展したのは極めて残念だ。

 裁判では、前知事による埋め立て承認は適正だったのか、翁長知事が承認を取り消したのは適法か、といった行政手続きの適否が直接の争点になるだろう。だが、この裁判が真に問いかけているのは、国の基地政策そのものや、国と地方自治体の関係のあり方と言える。

 国は、前知事による埋め立て承認に法的な瑕疵(かし)はなく、翁長知事による取り消し処分は違法と主張する。承認を取り消せば、普天間の危険除去ができず、米国との信頼に亀裂が生じるなど、公益を害すると言う。

 県側は、前知事による承認には瑕疵があり、取り消しは適法と主張する。環境保全が不十分で、移設の必要性には根拠が乏しいとも言う。

 国は安全保障という「公益」を強調し、沖縄は人権、地方自治、民主主義のあるべき姿を問いかける。その対立がこの問題の本質だろう。

 翁長知事は、提訴を受けた記者会見で「基地を押し付ける政府の対応は、沖縄差別の表れだ」と述べた。

 米軍基地問題で国と沖縄県が裁判で争うのは、1995年に米軍用地の強制使用の代理署名を拒んだ当時の大田昌秀知事を国が提訴して以来だ。翌年、国が勝訴した。高裁判決まで3カ月半、上告棄却まで全体で8カ月半のスピード裁判だった。

 今回、異なるのは、当時は国と地方が法的に上下関係にあったのに対し、2000年の地方分権改革により国と地方は対等・協力関係と位置づけられたことだ。

 国と地方が対等になった現在の制度のもとでも、代執行は認められているが、例外的な措置だ。制度の趣旨に照らせば、まず国が対話解決の努力をし、万策が尽きて初めて、代執行が選択肢になり得るのではないか。

 辺野古移設計画をめぐる安倍政権のやり方には、強引な姿勢がますます目立つようになっている。

 国は代執行とは別の行政手続きにより、すでに翁長知事による取り消し処分の執行を停止し、埋め立てに向けた本体工事にも着手している。

 国と地方の意見が対立した場合、それを調整する政治の力量が試される。国による提訴は、対話決着の放棄である。国の貧困な基地政策が見てとれる。


東京新聞社説:沖縄知事を提訴 基地負担を強いる傲慢辺野古で提訴 対話解決を放棄した国


朝日新聞社説:政権、沖縄知事を提訴 「第三の道」を探るとき

沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、安倍政権と県が法廷闘争に入った。

政府は、辺野古埋め立ての承認取り消しを撤回するよう県に指示したが、翁長雄志知事が拒否。そこで福岡高裁那覇支部に知事を提訴したのだ。

1年前の知事選など一連の選挙で反対派が勝利し、辺野古移設拒否の民意は明白である。そこから目をそらし、強引に移設を進めれば、沖縄県民に、日本国民に分断を生む。

沖縄の声になぜ耳を傾けないのか。不毛な政治のありようと言うほかない。

■二者択一を超える

改めて考える。辺野古移設は安全保障上、唯一の選択肢か。

答えは、否である。

政府は「辺野古が唯一の選択肢だ」と繰り返す。だが実際には、辺野古しかないという安全保障上の理由はない。むしろ、米国との再調整や、関係自治体や住民との話し合いなど、代替策の検討に入った場合に生じる政治的な軋轢(あつれき)を避けようとする色彩が濃い。

辺野古移設か、普天間の固定化か――。その二者択一を超えて、政府と沖縄、そして米国が納得しうる「第三の道」を探るべきときだ。

まず大事なのは、軍事技術の進展や安全保障環境の変化に応じて、日本を含む西太平洋地域全体の安保戦略を描き直すことだ。米軍と自衛隊の役割・任務・能力を再検討しながら抑止力をどう維持、強化していくか。そのなかで、沖縄の基地をどう位置づけるかを日米両政府が議論する必要がある。

たとえば、知日派の米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授は「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘している。中国に近い沖縄に米軍基地を集中させる発想は、かえって危ういという意見だ。

すでに米海兵隊は、ハワイやグアム、豪州、フィリピンへの巡回配備で対応を進めている。南シナ海での中国の海洋進出への対応を重視するなら、フィリピンなどに代替施設を造る選択肢もあり得るだろう。

■負担を分かち合う

そうした再検討のなかで、日本全体で安全保障の負担を分かち合うことも、いっそう真剣に検討する必要がある。

政府はこれまで、沖縄県外への機能移転を具体的に検討してきた。普天間の空中給油機部隊は岩国基地(山口県)に移ったし、新型輸送機オスプレイの佐賀空港への暫定移駐案が浮かんだこともある。

航続距離の長いオスプレイが、いつも沖縄にいる必然性はない。現実に訓練は本土でも行われている。

辺野古の代替施設が絶対に必要だとも言えない。横須賀基地(神奈川県)や三沢基地(青森県)の米海空軍を増強することにより、日本全体の抑止力が高まり、在沖縄海兵隊の削減につながるという指摘もある。

2011年には米上院のマケイン議員らが、沖縄・嘉手納基地の空軍の戦闘機部隊を三沢基地などに分散したうえで、普天間の海兵隊を嘉手納に移す案を示したことがある。

その後、仲井真弘多(ひろかず)前知事が辺野古の埋め立てを承認したため立ち消えになったが、日本全体や周辺を見渡せば、対案の組み合わせはほかにも考え得るだろう。当面は普天間の平時の運用停止を急ぎ、その代わり有事の際の使用は認める案もある。

■日本が決める問題

国土の0・6%の沖縄に、全国の73・8%もの米軍専用施設を押しつける異常事態を正すためにも、この際、日本政府として辺野古移設を白紙に戻す決断を求めたい。

そのことこそ、より説得力をもって「日本全体での負担の分担」を自治体や住民に働きかける力になるはずだ。

いまは「辺野古移設を支持する」と繰り返す米国の政策も、不変とは限らない。

来年11月に選ばれる米国の次期大統領が、違う選択肢を探る可能性もある。

実際、米国の駐日大使経験者からは柔軟な見方が相次ぐ。

19年前、橋本龍太郎首相と普天間返還を発表したモンデール氏は最近、沖縄の基地について「これは日本で決めるべき、日本の問題だ」と語った。前任のアマコスト氏も辺野古移設について「コストと便益を考えると見合わない。海兵隊基地の戦略的価値はどれほどあるのか」と疑問を投げかけている。

日本政府が辺野古に固執し続ければ、沖縄の民意はますます硬化し、結局、普天間の固定化による危険が続く可能性が大きい。周辺住民に支持されない基地に安定的な運用は望めず、長期的に見れば、日本の安保環境を損ねかねない。

まさに悪循環である。

辺野古をめぐる法廷闘争は、むしろ基地問題の解決を遠ざける。日米の政治の構想力と実行力が問われている。



読売新聞社説:辺野古法廷闘争 普天間の危険除去こそ公益だ

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、政府と沖縄県の主張が全くの平行線である以上、司法の場を決着の契機とするのは有力な手段だろう。

 政府は、地方自治法に基づき、翁長雄志知事を相手取り、辺野古の埋め立て承認取り消しを撤回する代執行に向けて、福岡高裁那覇支部に提訴した。

 米軍基地に関し、政府と沖縄県の法廷闘争は20年ぶりだ。来年春にも判決が出るとみられる。

 翁長氏は、石井国土交通相の是正勧告・指示を拒否している。提訴はやむを得ない判断だ。

 訴状は、承認取り消しにより、普天間飛行場の危険性除去や沖縄県全体の基地負担軽減が実現できず、日米関係に亀裂が入るなどの不利益が生じる、と指摘した。

 辺野古移設の騒音、環境への影響などの不利益は小さく、取り消しは違法だ、とも主張する。

 妥当な内容だ。勝訴すれば、政府は、代執行により、県の承認取り消しを撤回できる。

 翁長氏は、「銃剣とブルドーザーによる強制接収を思い起こさせる。沖縄差別の表れだ」と反発したが、正当な法的手続きを米軍の強制接収になぞらえるのはおかしい。辺野古移設は沖縄の負担軽減が目的で、「差別」ではない。

 翁長氏は、県民感情をいたずらにあおるべきではあるまい。

 県庁内には、翁長氏が承認取り消しの理由とする「法的瑕疵かしがある」との判断は客観性、公平性に欠ける、との批判がある。

 埋め立てを承認した仲井真弘多前知事は、「論理が合わない点やあいまいな点は(防衛省に)何度も質問した」と語り、法律に基づき厳密に審査したと強調する。

 本当に瑕疵があるなら、県の担当職員の責任を問わないと整合性が取れないではないか。

 翁長氏は、国交相による承認取り消しの効力停止を不服とし、総務省の国地方係争処理委員会に審査を申し出た。効力停止取り消しを求める訴訟も検討している。

 翁長氏は、辺野古移設に反対を唱えるばかりで、普天間飛行場の危険性除去への言及は少ない。

 菅官房長官が「翁長氏から解決策を聞いたことは全くない。沖縄県の関係者を含めた、これまでの努力を無視している」と批判したのは、理解できる。

 辺野古移設は、日米両政府と地元自治体が長年の厳しい協議と決断の末、「唯一の現実的な解決策」と判断した案だ。沖縄県内も反対一色ではない。政府は、移設作業を着実に進めるべきだ。