【甲状腺がん】「福島で多発中」と警鐘鳴らす津田敏秀教授〜「避難せず残った人にこそ正しい情報を」
              民の声新聞(鈴木博喜) 2015年10月8日
 福島第一原発事故後、被曝による福島県内での甲状腺がん発生率が全国平均と比べて最大で50倍に達しているとの論文を岡山大学の津田敏秀教授(環境疫学、医学博士)らがまとめ、国際環境疫学会に受理された。web上で先行公開されたことを受けて8日、日本外国特派員協会で記者会見した津田教授は「当初の予想を大きく上回るペースで甲状腺がんが多発している。しかし、日本国内ではほとんど理解されず、何の準備もなされていない」と警鐘を鳴らし「様々な事情で避難できず、福島での生活を続けている人たちにこそ正しい情報や知識を流し、無用な被曝を避けるべきだ」と訴えた。

【「甲状腺がんはさらに多発する」】

 津田教授らは、福島県や福島県立医大が原発事故当時、18歳未満だった子どもたちを対象に実施している甲状腺の超音波エコー検査の結果を分析。人口を基に福島県を9つの地域に分け、2014年12月31日までに集計された検査結果の公表データから、二本松市を中心とする中通りの中部で日本全国の年間発生率と比較して約50倍に達したことが分かったという。郡山市でも約38倍、須賀川市や白河市などの郡山以南、いわき市では約40倍だった。福島市を中心とした北部地区は約19倍、会津地方では約27倍だった。甲状腺検査が最も早く2011年に実施された相双地区は約29倍で、中通りに比べて数値そのものは低かったが、津田教授は「潜伏期間を考えると、1年未満で30倍近く多発したことは重要だ」と話した。

 一般的に、子どもの甲状腺がんは100万人当たり1-3人とされるが、福島県内では、今年6月30日までの検査で、対象となる38万人のうち137人が甲状腺がんと診断されている(疑いも含む)。

 津田教授は会見で「WHO(世界保健機構)が2013年にがんの多発が予測されると発表したが、その予測ペースをはるかに上回っている。著しい多発だ」と話し「チェルノブイリ原発事故から4年後と同じ傾向をたどっており、今後さらに甲状腺がんが多発することは避けがたい。それにもかかわらず、日本国内ではほとんどこの状況が理解されず、何の準備もなされていない。政府や福島県はこれまでの誤りを認め、詳細な情報を流すべきだ」と訴えた。
  

 記者会見を開いた岡山大学の津田敏秀教授。福島県内で甲状腺がんが多発していると警鐘を鳴らし「何の準備、対策も取られていない」と政府や自治体を非難した=8日午後、日本外国特派員協会

【「安定ヨウ素剤飲ませていれば…」】

 津田教授は2013年以降、スイスや米・シアトル、ブラジルで開かれた国際環境疫学会で福島での甲状腺がんの多発について発表してきた。衝撃を受けた海外の研究者らから「早く論文を書きなさい」と促され、今年に入って作成に取り掛かったという。

 会見では「スクリーニング効果」や「過剰診断」に対する質問も出たが「スクリーニング効果による偽の多発≠ヘせいぜい6-7倍。ところが、福島県では20-50倍もの多発になっている。過剰診断やスクリーニングだと言うなら、ちゃんと論拠となる論文を示して欲しい」と一蹴。「日本の保健医療政策は陰口≠竍立ち話∞噂話≠ノよって成り立っている。批判があるなら直接、言って欲しい。議論の場も設ける」と呼びかけた。

 甲状腺がんの原因を原発事故による被曝と結論付けることへ「時期尚早」との声が他の専門家からあがっていることについても「世界と比べて日本には疫学者が圧倒的に少ない。岡山大学には恐らく日本で一番疫学者が多いが、普段から彼らと議論していても『甲状腺の多発を被曝によるものと結論付けるのは時期尚早』だとか『原発事故が原因ではない』などと言う人は1人もいない。それは海外の研究者でも同じだ」と話した。

 原発事故後の日本政府の対応を「チェルノブイリ原発事故の経験がほとんど生かされていない」とし「安定ヨウ素剤を全ての子どもにのませていれば、甲状腺がんが半分に減らせた」と批判した。英文の論文 は誰でもアクセスすることができ、日本語訳は「できるだけ早く公開したい」(津田教授)。

津田教授の分析では、全国と比べて最大で50倍に達した福島県内での甲状腺がん発生率。会見では「チェリノブイリと同じ傾向をたどっている。今後、さらに多発しないと予想を立てる人がいるだろうか」と話した。

【「帰還政策は明らかに間違い」】

 津田教授の想いに反し、政府や福島県は「帰還政策」を推進。放射線から遠ざかるための避難・保養を促すどころか汚染が解消されていない地域に住民を戻そうとしている。住民の側も、県外避難より福島に残って生活することを選んだ人が多いのが現実だ。

 「100mSv以下の発がん性は因果関係が分からない、などとした帰還政策は明らかに間違い。しかし、様々な事情で避難できない人もいる。大した対策をとらなくても、詳細な情報を流すだけで、コストをかけずに放射線をさけることはできる。汚染の度合いの高い場所にいる時間を減らすだけでも被曝量は大きく変わってくる。現在の福島は、避難するか残るか、その判断材料すら与えられていないのです」

 国も行政も地元メディアも、こぞって原発事故を過去の出来事とし、汚染や被曝の危険性など無くなったかのようなムードづくりに専念している。政府の指示に拠らない「自主避難者」への支援打ち切りも決まり、自立せよと迫る。被曝の危険性を口にすると、風評被害を撒き散らすなと非難される。伊達市の仁志田昇司市長のように「心の問題」に収れんさせようとする首長までいるほどだ。しかし、津田教授は「この先、チェルノブイリと同じようにさらに甲状腺がんが多発しないということは考えられない」と健康被害の拡がりに懸念を示す。

 「福島に住み続けなければならない人にこそ、正しい情報・正しい知識が与えられるべきなんです」

 原発事故から間もなく、55カ月を迎える。