特集ワイド:実現する?野党共闘 共産提案「国民連合政府」、選挙協力…民主、維新は慎重集ワイド:安保関連法「違憲」は出るか          毎日新聞 2015年10月05日 東京夕刊
 

 「大同団結」への引き金になるのか。共産党が提案した「国民連合政府」構想と国政選挙での選挙協力だ。安倍晋三政権が、国民の反対を押し切って成立させた安全保障関連法の廃止と、立憲主義を取り戻すことが大義名分。だが、民主党や維新の党などは慎重な姿勢を崩さない。安倍政権打倒を目指して、まず来夏の参院選で勝利するには、党内事情などは二の次のはずだが……。【江畑佳明、葛西大博】

 「(民主党の岡田克也代表とは)『引き続き話し合っていく』で一致した。そのどこが『不調』なの? こんな大問題の話し合いが一回でつくとでも? 嘘(うそ)で邪魔はやめてほしい」

 構想の発起人である志位和夫・共産党委員長は9月25日、自身のツイッターにこんな一文を投稿した。この日、岡田氏と初めて会談したのだが、マスコミ各社は岡田氏は消極的な反応だと報道。これに対し「温厚で冷静な性格」(永田町関係者)との定評がある志位氏が憤慨したのだ。

 「国民連合政府」構想とはこうだ。来夏の参院選、次の衆院選を念頭に、野党間で選挙協力し、政権交代を果たす。その後「連合政府」を作り、集団的自衛権の限定行使を可能にした閣議決定を撤回、安保関連法も廃止する??。

 志位氏は同19日の記者会見でこう述べている。「『野党が一つにまとまってほしい』という国民のみなさまの痛切な声を真剣に受け止めた」。加えて、選挙協力の合意ができたら、選挙区で立候補の取り下げもあり、という。選挙区での戦いで比例票を積み上げて党勢を拡大する従来の基本戦略からの転換といえる。

 自民党も無関心ではないようで、谷垣禎一幹事長は「十分注意し警戒しなければならない」。来夏改選を控えた参議院の若手自民議員は「野党共闘が実現して安保法制反対の若者らが一緒になって落選運動を展開したら、影響は大きい」と不安を隠さない。

 事実、来夏参院選の1人区(計32)で野党が統一候補を立て「与野党対決」になれば、複数の選挙区で野党が勝利するという試算がある。

 野党にとっては渡りに船と思いきや、軒並み冷ややか。

 「既存の野党の枠を超えてほしいという声もあるが、そうでない民意もある」(岡田代表)▽「到底、実現できる中身ではない」(細野豪志・民主政調会長)▽「連合政府は全く無理な話」(民主の支持母体である連合の古賀伸明会長)▽「(共産党は)再編の仲間ではない」(松野頼久・維新の党代表)??。なんだか突き放した感さえある。その中で、生活の党の小沢一郎共同代表と、社民党の吉田忠智党首は構想に賛同の姿勢を見せている。

 このような「永田町の論理」は、有権者に通じるのか。

 「安保関連法について『反安倍』『非自民』の世論が盛り上がりましたが、それはそのまま『民主支持』『共産支持』になっているわけではありません。この世論を受け止める大きな『帆』が必要、という意味で重要な提案だと思います」と、構想を一定評価するのは、政党政治に詳しい北海道大教授(比較政治)の吉田徹さんだ。

 共産の狙いを、小選挙区制度の問題点を交えながら説明する。「野党の選挙協力がなければ政権交代は起こりにくい。それなのに共産が自党の議席を温存するためだけに、いわゆる『籠城(ろうじょう)作戦』を続ける限り、野党分裂状態は変わらない。それでは有権者から『共産は政権交代を邪魔するのか』という批判さえ出かねない。今回の構想が実現すれば議席は減らすかもしれないが、各党で合意した政策が実現できるというメリットも生じる」

 他の野党も政権奪取は悲願。民主と維新は既に、新党結成も視野に、公約の作成や選挙協力を検討している。

 民主のあるベテラン議員は「自民を一議席でも減らすために共産案も絶対進めるべきだ」と歓迎するが、党内の消極ムードの理由を「連合、つまり労働組合の顔色をうかがっている。連合がノーだからノーなのです」と打ち明ける。「自前の後援会で選挙を勝てる民主の議員はほんの一握りで、ほとんどが労組におんぶに抱っこ。その連合は共産へのアレルギーが強すぎる」。教職員や公務員などの労働組合では、伝統的に「社会(社民)、民主支持の組合」と、「共産支持の組合」という対立が続き、その感情のしこりが大きい、というのだ。だが有権者には「野党は『非自民団結で政権交代を』という民意よりも党内事情を優先している」と映るのではないか。

 ◇「参院選負ければ、国民見放す」

 カギは野党最大勢力の民主の動向になるのだろうが、「日本共産党の深層」の著書があるノンフィクション作家の大下英治さんは「民主は二つの重要な点を理解していない」と指摘する。

 「一つは『民主はノー』という世論です。政権を担当時、沖縄の基地県外移設をほごにするなど、国民の期待をあれほど裏切ったのに、岡田代表はまだ『民主中心で政権を取る』なんて言っている。まったく国民に失礼な話です。まず、民主が解党して出直すべきです」と手厳しい。

 さらに、民主は安倍首相を甘く見てはいないかと付け加える。「祖父の岸信介元首相の宿願である憲法改正に懸ける安倍首相の執念はすさまじい。次期参院選で憲法改正の国会発議ができる3分の2以上の議席獲得を死に物狂いで狙ってくる。そんな安倍首相に勝つには、連合の共産アレルギーとか、保守の支持層が逃げるとか言っている場合じゃない」と批判する。

 政治評論家の森田実さんは来夏の参院選の重要性を強調する。「2009年衆院選での政権交代は、07年参院選での野党躍進があったから。1993年の非自民連立政権は、89年の参院選で自民が消費税導入への反発で大敗したことに起因します。反安保法制の世論を見れば、参院選で野党が勝ち、次の衆院選での政権交代につながるチャンスがある。逆に参院選で野党が負ければ、国民から見放され、存在意義はゼロになる」

 野党共闘のヒントとして沖縄県でのケースを挙げる。14年11月の知事選で「米軍普天間飛行場の辺野古移設反対」の一点で、分裂した保守と革新勢力が一致団結し、翁長雄志知事が誕生した。同12月の衆院選でも、野党が協力し、沖縄県内四つの小選挙区すべてで議席を得た。安保関連法でも、野党は共同で内閣不信任案を提出した。来夏の参院選で協力し、衆参での「ねじれ」を起こすというシナリオは不可能ではない。「野党は今、『反安倍』で共同戦線を張ることに全力を傾けるべきです」。森田さんの直言だ。

 共産にも注文を付ける。「提案自体は正しいが、政治は論理ではなく情念、つまり好き嫌いで動く。他党の共産アレルギーを分かっているのだから、他党を呼び込むには『共産党は国民のため、野党共闘のため、解党も辞さない覚悟です』くらいの態度を示さないと」

 国民は野党共闘の行方を注視している。