● ODA、他国軍への支援解禁 政府、新大綱を閣議決定へ
                                        2015.1.9 朝日新聞デジタル

 政府は8日、途上国援助(ODA)の基本方針を定めた今のODA大綱に代わる「開発協力大綱」を自民、公明両党の関係部会に示し、了承された。安倍内閣は来週にも閣議決定する。これまで制限してきた他国軍への支援を、災害救助など非軍事の分野に限って解禁する内容だ。日本がODAを始めてから60年あまり、軍への支出を一切してこなかっただけに、大きな転換となる。

ODA、軍事転用の恐れ 新大綱「積極的平和主義」を反映
 政府がこれまでODAを他国軍に一切使わなかったのは、1992年の最初のODA大綱で記した「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」との原則を03年の改定時にも維持し、厳しく運用してきたからだ。

 だが、安倍政権は13年に定めた国家安全保障戦略で「積極的平和主義に基づきODAを戦略的に活用」すると明記した。安倍政権の外交・安全保障政策にとって、新大綱は集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の撤廃に並ぶ「3本目の矢」(外務省幹部)と位置づける。

 新大綱は、現大綱の原則に「相手国の軍または軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」との文言を加え、他国軍への支援を可能にした。

 ただ、支援の対象を「民生目的、災害救助など非軍事目的の開発協力」とも規定。軍に武器ではない物資を送ったり、軍人に民主制度の研修を実施したりすることはできるようになるが、武器の提供やODAで造った施設の軍用化、軍事関連の技術支援は引き続き禁じている。

 ただ、他国軍に提供した物資・技術は、その国の使い方次第で軍事転用されるおそれもある。昨年11月にあった公聴会では、参加者から他国軍への支援は「軍事転用されたかどうかの追跡調査が難しい」「相手の軍事費の肩代わりをODAでやることになる」といった懸念が示されたが、新大綱には転用を防ぐ具体策は盛り込まれなかった。(広島敦史)


以下はキーワードの解説
ODA大綱(2014年08月29日 朝刊)
政府の援助政策の目的や基本方針、重点課題などをまとめた文書。92年に閣議決定され、03年に改定された。(1)環境と開発の両立(2)軍事的用途の回避(3)軍事支出・大量破壊兵器等に十分注意(4)民主化・人権等に十分注意、との4原則を掲げている。安倍政権は、ODAを安全保障や経済分野で積極的に活用できるよう大綱を見直し中。13年のODA実績(暫定値)は前年比11・1%増の117億8600万ドル(約1兆2千億円)で、米国や英国、ドイツに次いで世界4位。

武器輸出三原則(2013年12月24日 朝刊)
1967年に佐藤内閣が、武器輸出について、(1)共産圏(2)国連決議で禁止された国(3)国際紛争の当事国や恐れのある国——に認めない方針を表明。76年に三木内閣がこれ以外の国へも原則、武器輸出を禁じた。2011年に野田内閣が三原則を大幅に緩和し、平和・人道目的や、国際共同開発・生産への参加であれば、例外として武器の輸出を認めた。安倍政権は今月策定した国家安全保障戦略の中で、三原則に代わる新原則を定める方針を示した。

救難飛行艇と武器輸出三原則(2013年12月29日 朝刊
武器輸出三原則では国際紛争の当事国やおそれのある国への武器輸出を禁じている。だが、日本政府はUS2について、敵味方識別装置などを外せば三原則に抵触せずに救難機として輸出できると解釈。防衛装備品としてつくられた航空機に企業が改造を施して輸出する初めての試みとなる。一方、他国との装備品の共同開発・生産によるコスト削減を図るため、安倍政権が三原則に代わる武器輸出管理原則を策定する方針を打ち出したことを懸念する声もあり、今後、US2の転用に慎重な意見も予想される。

武器輸出三原則の緩和(2014年06月17日 朝刊)
4月に安倍内閣が閣議決定した「防衛装備移転三原則」で、武器輸出はこれまでの原則禁止から、条件を満たせば認められるようになった。防衛産業の育成が狙いの一つだが、輸出の対象国や対象品目があいまいだとの指摘がある。