邦人救出に自衛隊派遣も 政府が想定問答、法整備条件で

20151280303 朝日新聞デジタル

 過激派組織「イスラム国」による人質事件を受け、今国会で成立をめざす安全保障法制との関連について、政府内で記者会見や国会質疑の想定問答集が作られていたことが分かった。今回の事件は、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定で定められた「武力行使の新3要件」を満たすケースではないとする一方、法が整備されれば人質救出のために自衛隊を海外に派遣できるようになるとしている。

 想定問答集は政権の指示で国家安全保障局が作成し、関係省庁に示していた。

 昨年7月の閣議決定で定められた「武力行使の新3要件」では、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限って武力を使うことを認めている。想定問答では、今回のような人質事件が、3要件を満たす事態かどうかについて「許しがたいテロ行為であるが、そのことをもって新3要件を満たすとはいえない」と明記。日本が武力を使って「イスラム国」と戦うために、自衛隊を派遣することはできないとしている。

 「『イスラム国』に空爆している米軍に対し、後方支援が可能となるか」については、「他国軍隊に必要な支援活動を実施できるよう法整備の検討を進めている」として、法的には可能になると指摘。一方で「イスラム国」関連では、人道支援やインフラ整備などで「今後とも非軍事分野において積極的な支援を行っていく」と一線を引いた。

 想定問答は今回のような事件について、日本人救出のために自衛隊が派遣できるかにも言及。「『国家に準ずる組織』は存在しないとの考え方を基本とし、領域国の同意に基づく邦人救出などの警察的な活動ができるよう法整備を進める」と明記「イスラム国」が活動するイラクシリアなどの領域国が同意すれば、自衛隊の救出活動は「警察的な活動」として認められる可能性があるとした。

 ただ、「イスラム国」が自ら主張するように国家や「国家に準ずる組織」とみなされるなら、自衛隊による武器使用は憲法が禁じる海外での武力行使に該当するおそれがある。このため想定問答では、「イスラム国」が国家に準ずる組織かどうかについて「政府として判断していない」とあいまいにしている。

 想定問答はまた、自衛隊が米国と密接に協力すれば「日本人がよりテロの脅威に直面するのでは」との問いに対し、「今回の事件と安保法制の整備はまったく関係性はない」と主張。閣議決定に従って法整備を進める考えを示している。 


閣議決定と新3要件20140706日 朝刊)

政府は閣議決定で、集団的自衛権を使うことを「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」と位置づけた。前提となる「武力行使の新3要件」に、まず「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」と他国での戦争参加を明記。さらに憲法前文の「国民の平和的生存権」や13条の「生命、自由及び幸福追求権」に触れ、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に、「必要最小限度」の武力行使ができるとした。