20154月施行で混乱必至、改正労働者派遣法案が臨時国会へ

2014/09/24 日経コンピュータ岡部 一詩)から転載

014929日に召集予定の臨時国会で、政府は改正労働者派遣法案を提出する。同法案は先の通常国会では法案の不備により廃案となったが、一部の条文に修正を加え、ほぼ同じ内容で再提出する方針だ。

 法案の施行目標は、通常国会提出時と同じ20154月に据え置く。ただし、制度改正の詳細を規定する省令や指針の確定は年明け以降にずれ込む見通しだ。通常国会提出時は、早ければ2014年夏から秋、遅くとも初冬での確定を予定していたが、再提出では詳細確定から施行までの期間が大幅に短くなる(1)。このため、技術者の派遣先及び派遣元は早急に情報収集を始め、準備を進める必要がありそうだ。

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1●改正労働者派遣法の施行スケジュール

雇用安定措置やキャリアアップ措置に注目

今回の法改正は、IT業界に非常に関わりが強い二つの制度廃止を盛り込む。「特定労働者派遣」と「専門26業務」だ。

 特定労働者派遣は、派遣元が常時雇用する技術者を派遣する形態で、届出のみで手軽に事業を開始できる(関連記事1特定労働者派遣廃止の衝撃)。ユーザー企業や大手ITベンダーなどへのIT技術者派遣は、この形態を採るのが主流だ。

 それが改正法の施行により廃止となり、許認可制になる。事業所ごとに現金・預金を1500万円、純資産を2000万円保有するといった資産要件などをクリアすることが条件となる見込みで、技術者派遣で生計を立てる中小ベンダーなどは事業継続が厳しくなる。

専門26業務とは、派遣期間の制約を受けない指定業務のこと(関連記事2最長3年へ、派遣の専門26業務撤廃)。派遣業務には通常、最長3年間という期間制限が存在する。ただしソフトウエア開発などは専門26業務に指定されており、長期間の技術者派遣が可能だった。今回の法改正では、その区分が撤廃され、IT業界も同一技術者の受入期間は最長3年間までという制約の適用を受けるようになる。 

 二つの制度廃止は、臨時国会の審議を経ても大枠は変わらない公算が高い。厚生労働省労働政策審議会で労使の代表がまとめた平成26129日建議の内容に含まれるからだ。

 臨時国会の審議で注目されるのは、派遣技術者に対する「雇用安定措置」や「キャリアアップ措置」に関するものだ。国会審議では、具体的にどういった取り組みが必要になるかといった答弁が交わされると見られる。答弁の結果は省令や指針に盛り込まれ、新しい法制度下での運用を規定することになる。

 派遣事業者や派遣業を手掛けるITベンダーは、答弁の行方を注視する必要がありそうだ。法案の条文だけでは明らかになっていない新制度の運用内容が見えてくるからである。

 例えば、雇用安定措置の内容だ。129日建議で、派遣元は派遣技術者の雇用の安定を図るために(1)派遣先への直接雇用の依頼、(2)新たな派遣先の提供、(3)派遣元事業主による無期雇用、(4)その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置、のいずれかを講じるべきとしている。厚労省の関係者によれば、(1)から(4)のいずれも満たせなければ、最悪の場合、許認可の取り消しもあり得るとする。

それでは、(4)の「その他の措置」とは、どういった取り組みを指すのか。関係者によると、一定期間を派遣社員として働いた後、本人と会社が合意すれば正社員になれる「紹介予定派遣」を想定しているという。こうした内容が、国会答弁で明らかになると見られる。

 

臨時国会での成立が濃厚

通常国会で廃案となった改正派遣法案だが、臨時国会では成立するのか。現時点では、成立の見込みは高いという見方が濃厚だ。

 通常国会では、厚労省が提出した改正派遣法案の罰則規定に記載ミスがあったため、同法案は事実上、1度の審議もされないまま終わった(関連記事:改正労働者派遣法、法案にミスがあり通常国会での成立は見送りに)。ただし臨時国会では、「派遣法改正以外に、大きな法案がいくつもあるわけではない」(厚労省関係者)ため、十分な審議期間を取れる。

 改正派遣法案は、今回の臨時国会では数少ない与野党の対立案件になる見通し。ただし、大枠は労働政策審議会で労使の合意を得ている。日雇い派遣に関する箇所で争点があるものの、「その他に、もめる要素はあまりない」(厚労省関係者)。順当に審議を尽くせば、成立は固い。

 ただし、十分に審議が尽くせないリスク要素は存在する。注目度が高い改正派遣法案は野党の要請で、安倍首相が参加する審議になる可能性があるからだ。首相が他の法案に時間を取られると、審議が停滞することもあり得る。

 

労働契約申込みみなし制度の施行は2015年10月

今回の派遣法改正は、規制強化に当たる。特定労働者派遣の廃止は、中小の派遣事業者やITベンダーの撤退を招く。さらにキャリアアップ措置の義務化などで派遣元は、「スキルなどが相対的に低い派遣技術者を雇用しなくなる可能性がある」

 派遣事業は、IT業界の人的リソースの需給調整機能を果たしてきた側面がある。法制度の厳格化で供給が追いつかなくなると、IT投資増や巨大プロジェクトによる業界の人手不足に、さらに拍車をかける結果になる。

 派遣先の立場にあるユーザー企業や大手ベンダーも他人事ではない。今回の派遣法改正によって、今まで受けれてきた派遣技術者の交代などを迫られる可能性がある。

 さらに、派遣技術者の受入先にとって、もっと注意を払うべき新制度の施行も2015年に控えている。「労働契約申込みみなし制度」だ。2012年の派遣法改正で規定されたもので、201510月の施行が決まっている。違法であることを知りながら派遣技術者を受け入れている場合、派遣先が派遣技術者に対して労働契約を申し込んだものとみなす、というものだ。

 同制度を甘く見ていると、思わぬトラブルに陥る。好例が偽装請負だ。常駐技術者に直接指揮・命令をするにもかかわらず、委任型の契約を締結していると、それは偽装請負に当たる。「違法とは知らなかった」と言い逃れするのは難しい。その瞬間、常駐技術者に対して、雇用契約を申し込んだことになる。

 偽装請負で常駐している技術者は1人や2人ではなく、何十人にも上るケースが少なくない。その全員を直接雇用する義務が生じるわけだ。加藤所長は、「法律の中身をよく理解して体制を整えるなど、今から準備を進める必要がある」と警鐘を鳴らす。