朝日新聞デジタル

他国軍後方支援に恒久法 政権検討 自衛隊派遣、容易に
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安倍政権は、来年の通常国会に、自衛隊による米軍など他国軍への後方支援をいつでも可能にする新法(恒久法)を提出する検討に入った。これまで自衛隊を海外派遣するたびに特別措置法を作ってきたが、新法を作ることで、自衛隊を素早く派遣できるようにする狙いがある。自衛隊の海外活動が拡大するため、活動内容や国会承認のあり方でどこまで制約をかけるかが焦点になる。

 政権は7月の閣議決定で、集団的自衛権の行使を認めるとともに、海外で自衛隊が米軍などを後方支援する活動範囲の拡大も決めた。派遣期間中に戦闘が起きないと見込まれる「非戦闘地域」以外でも、派遣時に戦闘がなければ、自衛隊を派遣できる内容だ。これに沿って、他国軍への物資の補給や輸送など直接の武力行使を行わない後方支援活動を随時できるようにする新法を整備する。

新法では、自衛隊を派遣する対象として、侵略行為をした国などに制裁を加える国連安保理決議に基づく活動や、米国を中心とする対テロ作戦のような有志連合の活動などを想定している。派遣に際しては、活動内容や区域を定めた基本計画を閣議決定し、国会の承認を必要とする方向で調整している。
自衛隊の海外での後方支援をめぐっては、2001年の米同時多発テロ以降、米軍など多国籍軍の支援や復興支援活動のために特別措置法を作り、インド洋やイラクに派遣してきた。

ただ、個別の事態が起きてから特措法を作り、国会で成立させるのでは派遣までに時間がかかるため、政府・自民党内では、あらかじめ自衛隊を海外派遣できる規定を盛り込んだ新法を求める意見が強かった。

自民、公明両党は、新法を含めた安保法制全体の協議を来年1月下旬に始める方向で調整している。公明党は幹部を中心に、新法が必要との主張に一定の理解を示しているが、同時に活動範囲や内容を限定して国会承認を厳格にするなど厳しい「歯止め」が必要との立場だ。政府・自民党公明党との協議で、新法を含めた安保法制全体の内容を固めたうえで、来春の統一地方選後に国会での審議入りをめざす。(石松恒)

米軍支援拡大を狙う 国会の歯止め、焦点 恒久法検討
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写真・図版《解説》安倍政権が自衛隊による後方支援のための新法を制定するのは、米軍への支援を地球規模に広げる狙いからだ。ただ、公明党は自衛隊の海外での活動範囲や内容を広げることには慎重だ。今後の与党協議では、国会による歯止めをどうするかも焦点となる。

新法制定の背景には、中国の台頭で緊張感が高まる日本周辺の安全保障に米国をつなぎとめたいという政権側の事情がある。世界中に展開する米軍への後方支援に積極的になるかわりに、尖閣諸島の問題などで、米国の関わりを強めてもらおうというのだ。
今後の与党協議のポイントは、米国のニーズに対応してどこまで自衛隊の活動を広げるかだ。

7月の閣議決定では「非戦闘地域」の考え方をなくすなど、自衛隊の海外での後方支援の範囲を拡大した。来年前半に見直す日米防衛協力のための指針(ガイドライン)では、「周辺事態」の考え方もなくす方針だ。周辺事態法の廃止も検討している。自衛隊の活動範囲の制約を少なくし、米軍に協力しやすくするのが狙いだ。一方、公明党周辺事態法が廃止された場合、自衛隊の活動範囲が一気に広がるおそれがあると懸念する。

さらに防衛省幹部は「支援内容は広いことが望ましい」とも話す。これまで事実上認められなかった武器・弾薬の提供や戦闘準備中の航空機への給油・整備なども加える考えだ。ただ、こうした活動は、自衛隊員が戦闘に巻き込まれるリスクも高まるため、公明党は慎重だ。

 もう一つのポイントが、新法で国会が関与する仕組みをどう盛り込むかだ。新法では、国会の承認だけで派遣を可能にする。そこで国会の承認を事前に義務づけるかどうかで、歯止めとしての国会の役割が大きく変わってくる。事後承認が認められると、政府の判断を追認せざるを得ない状況になる可能性もある。公明党は国会の関与を強めて、実質的に特措法と同じような歯止めをきかせたい考えだ。政府・自民党は、緊急時は事後承認も認めることを検討している。(今野忍、三輪さち子)

キーワード
<日米ガイドラインと周辺事態法> 自衛隊と米軍の役割分担について、1997年に朝鮮半島有事などを想定した現在のガイドラインに改定した。これに基づいて99年に、日本周辺での有事の際に米軍への後方支援を可能とする周辺事態法が成立した。来年前半をめどに再改定するガイドラインでは、地球規模で日米の防衛協力を進める方針を盛り込む予定。